また、ベトナムにおいては1984年以降、500キロワットの原子炉が主に医学の研究目的で設計され、すでに稼働中だ。1980年代の後半から、ベトナムでは経済の改革開放運動がスタートした。経済成長が順調に推移するに伴い、電力事情はうなぎ上りに増えている。若い国民が多いため人口増加も著しく、現在7,600万人ほどの人口だが、2020年には1億人を突破するのは確実とみられている。
現時点で、ベトナムは隣国のラオス、カンボジア、中国などから水力発電によって送られた電力を輸入する形でエネルギー需要を賄っている。ベトナムにとっては一日も早いエネルギー面での自立が国策上の課題と言えるはず。そこでベトナムは2005年、中部ニントワム地区に新たな原子力発電所の建設を始めた。稼働するのは2017年以降とみられているが、エネルギーの自立に向けた着実な動きとして世界の注目を集めている。日本やアメリカ、そしてフランスの原発メーカーもこうした急成長の期待できる新しいマーケットに何とか食い込みたいと、あの手この手の作戦を講じているようだ。
次に、マレーシアについてみてみよう。産業化も進み、電力需要も急増していることから、同国の国営石油会社であるペトロナスはこのところ一貫して増収増益。そうした背景もあり、マレーシア政府は石油による安定的な電力供給が可能だと判断し、他の周辺諸国とは違い、原子力発電に関してはそれほど熱心に取り組んでこなかった。ところが、ここ数年来の原油価格の高騰と石油資源の枯渇の可能性が取りざたされるようになり、マレーシア政府としても今後は本格的に原子力発電に着手せざるを得ないとの判断に至ったようである。
周辺のアジア諸国との間ではすでに15年以上遅れてのスタートだが、マレーシアは新たに原子力技術研究センターを立ち上げた。これからどのような急追ぶりを示すのだろうか。マレーシア原子力庁の幹部曰く「原子力の力でマレーシアは新たな経済的飛躍を勝ち取る」とのこと。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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