<ひとつの懸念>
組織の必要性を感じ、会社を設立した。そして本社ビルまで持つに至った。コンサルタント業、建築業、ともに順風満帆そのものだった。時間の流れとともに、顧客の数も増加していった。
追い風に乗っていたのだ。案件をこなしていくごとに組織全体のスキルが上がっていく。企画力、提案力が向上していくにつれてファンが増えていく。黒木の目論みどおり、いい連鎖が始まった。顧客が増えるに従って、ある懸念が黒木の中で生まれる。
「すべてのオーナーさんたちを回る時間がなくなる日は、そう遠いことではない」
時を同じくして、ひとつの問題が表面化してきた。建物の管理でのことである。黒木がコンサルタントとして建築した建物は基本的に管理までを引き受けていた。引き受けていた、とはいっても実際の管理業務、たとえばマンションのゴミ拾いやフロント掃除、蛍光灯の付け替えなどは下請けの会社に任せていた。その会社とオーナーの間で意識のずれが散見されるようになってきたのである。
管理会社は管理のプロ。自分の流儀で仕事を全うしてくれてはいた。けれどもオーナーたちは、その上を望んでいたのだ。週1回の管理訪問を2回にしてほしい。管理受注したのは黒木であるから、黒木のもとに要望が届く。それを下請けである管理会社に伝えると、それはできない、無理だとの返答が返ってくる。オーナーと管理会社の狭間で、黒木は次の一手の必要性を感じていた。次の一手、それは自社でのビル管理である。
企画、建築までやったなら、管理までも手がけたい。何より下請けにまわすよりもオーナーの満足と利幅が高まる。加えて管理という日常のオーナーとの接点を他社に任せてしまうと、もしオーナーが新たなビルを建てたいと思ったときに黒木を選択してくれないかもしれないという危惧もあった。日ごろからオーナーと良好な関係を維持することは次のビルを受注できるという可能性をも内包しているのである。
そこまで考えが及ぶと、黒木はビル管理を自社で行なう以外ないと思うようになった。当時の黒木陣営は総勢7名。これでは管理まで手がまわらない。黒木は新たなスタッフの必要性を感じた。誰か適役がいないか。黒木はアンテナを張り巡らせた。
【柳 茂嘉】
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