一方、シンガポールは原子力発電に関しては極めて慎重な態度を崩していない。周辺国がこぞって原子力発電所の建設や計画に走っている中、唯一例外的に原発の持つ危険性を重視している。シンガポールは国土面積が日本でいえば淡路島より小さい都市国家である。そんな地理的制約の中で原子力発電所を建設する場所が容易には確保できないというのが本音の部分ではなかろうか。他のアセアン諸国のリーダーたちが新たなエネルギー源として原発に関心を寄せている半面、シンガポールは石油や天然ガスに代わるエネルギー源としては太陽光発電に最も力を入れてきた。
ところで、インドネシアの状況はどうだろう。同国は世界最大の天然ガスの輸出力を誇っている。2005年、インドネシアは同国にとって初の原子力発電所の建設を始めた。もともと、この計画は1995年にスハルト政権のもとで発表されたものである。しかし、1997年にアジアを襲った通貨危機のあおりを受け、多くの国民から反対運動が巻き起こったことも災いし、この計画は店晒しにされてきた。しかし、間近にエネルギー危機が迫ってきているとの判断から、当初は1,000メガワットの発電所を12基計画していたものが、4基に削減し2010年から建設が始まる予定である。操業が始まるのは2017年の予定。
とは言え、インドネシアでは原発に対する反対運動は根強く、グリーンピースなどが音頭をとり、多くの宗教的指導者や学者を巻き込んだ反対運動が続いている。また、アジア最大のイスラム王国であるインドネシアは原子力発電に対して「まだ十分に自然界の力を借りていない」という理由で反対の意向を示している。インドネシアでは放射性廃棄物の安全処理と管理の問題が他の国々より深刻に受け止められている。いわゆるイスラム過激派と呼ばれるテロ組織も暗躍を続けているため、原子力発電所はテロのターゲットとなる可能性も懸念されるし、放射性廃棄物が悪用されかねないという恐れもぬぐい切れない。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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