<長期成長モデルができあがる>
平尾に支店を開設したことによって、黒木の考える不動産ビジネスのモデルが完成したことになる。そのモデルというのは、コンサルタント、建築、管理。この3つが互いに影響をおよぼしあうことによって、永続的に発展することができるというものである。
噛み砕くと、およそ次のような流れになる。まず資産を持つ人の元に資産活用提案を持っていき(コンサルタント)、提案、折衝を重ねてお互いの合意に至る。これでコンサルタントフィーは約束される。次に、提案内容を建築というかたちで実行する。それによって建築に関する売上、たとえば設計料や仲介手数料などが約束される。竣工後はゴミ拾い、メンテナンスなどのビル管理を請ける。管理費ということで継続的に売上が経常されるうえに、物件オーナーたちと常に顔を合わせることで他社の介入の余地をはさませない。それによって次の物件の発注を受けることができる、というループ。これが黒木の思い描いたビジネスモデルなのである。コンサルタント、建築に管理が加わることによってパズルが完成したのだ。
平尾支店はそれだけ大きな存在であった。期待も大きかった。そして、その期待に応えるかのような結果を産んでいった。これまで以上にオーナーが頻繁に店に来てくれるようになった。
「いいところに店をもったね。分かりやすくて来やすくなった」
こんな声が多く寄せられるようになったのである。黒木は晴れやかな気持ちになった。これまで住宅地の一角で、あまり目立たない存在だった黒木事務所が、表舞台に躍り出たような感覚を覚えたという。
「一等地に店を構えることができて、嬉しい気分でいっぱいでした。内装にもお金をかけたので、見た目としても満足のいくものができました」
黒木は、より顧客満足を高めるためには、どうしたらよいかを考えた。これまでのように黒木自らオーナーのもとを訪れることは、顧客の数が100人を超えた頃には物理的に不可能になっていた。店に来てもらうのは、たしかに会社にとって有益ではあるが、それだけでは、どうにも心もとない。訪問せずに顧客とのつながりを維持する方法はないものか。
社交クラブ。黒木の脳裏に浮かんだ答えだった。オーナー様を一同に集めておもてなしをする場をもうけよう。黒木はオーナーズクラブを立ち上げる決意をした。
【柳 茂嘉】
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