<ふたつの会を立ち上げる>
オーナーズクラブを立ち上げよう。月に一回、オーナー様たちを集めて食事会を開く。オーナー様同士のつながりも提供できるし、感謝されるだろう。黒木はさっそく実行に移した。
ホテルを借りて食事を提供する。もちろん、費用は黒木側の負担である。これによって、オーナーとのつながりを良好に保つことができ、さらにそのような仕組みがない他社よりも感謝をしてもらえた。オーナーたちが集まることで、新たなネットワークも生まれた。回を重ねるごとに、黒木はこのシステムに自信を持っていった。
顧客満足の仕組みはできあがった。けれども黒木には、まだ取り組みたいことがあった。協力会の設立である。お金を払ってもらうのはオーナーからだが、お金をつくるのは協力してくれる会社があってこそ。オーナーの満足を得ると同時に、協力してくれる人々の満足も高めなくてはならない。かつて個人で仕事をしていたときは声をかけるだけでよかった。
「今日、7時から飲みにいきましょう」
これだけでよかった。けれども会社組織になり、仕事量も増加した。協力してくれる会社も増えた。黒木が接待するだけでは、関係を維持することが難しくなっていたのである。
オーナーズクラブのように、感謝してもらえて結束を固めるような仕組みづくりをしなくてはいけない。黒木は協力会の設立を決意する。
これまで力を貸してくれた会社を中心に、協力会の発足を告げる。これまでは黒木が事務局を努めなくてはならなかったが、会を組織することにより、幹事が会合の場の設定、議題の提起などを肩代わりしてくれるようになった。黒木主導では成し得なかった会合が誕生した。しかも黒木は、自分が幹事になる必要がなくなる。手間が減って満足が高まる仕組みが完成したのである。
黒木も協力会を大切にした。仕事は協力会に発注をかけるよう心がけた。飛び込みで単価の安い建設会社が提案にきても、発注することはなかった。黒木の義理堅さが会の魅力を高めた。
多くの会社が協力会に参加することを望んだが、そこは黒木一流のバランス感覚である。お金を払えば入ることができるような、安易な会にはしなかったのである。黒木協力会に入るためには、どんな会社であっても、仕事の発注がなくても、3年間は協力会の傘下団体である「ブラックウッド会」と名付けられた新人のための会に入らなくてはならないようにした。これは古くからの協力者に対する黒木の心ばかりの感謝の気持ちからできたものだ。開設当時、協力会は7社程度だったが、ブラックウッド会は20社を超える参加者となった。
オーナーズクラブ、協力会。ふたつの会の設立は、黒木の周辺にいる人々の満足を高め、経営を堅牢なものにしていった。
【柳 茂嘉】
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