<戦略的な思想>
社がどんどん成長していく。それに伴い顧客も、実績も増していった。
「長男を車に乗せて山荘通りをドライブしていたときのことです。子供に『このビルも私が建てた、あのビルも私が建てたのだよ』と話すと、変な顔をして言いました。『ビルを立てるのは大工さんでしょう。お父さんは大工さんじゃあない。スーツを着ているし。お父さんが建てたんじゃあないでしょ』その言葉を聞き、はっとしました。私は自分の実績に酔って調子にのっていたのではないか。謙虚さが足りなかったのではないか。協力会のメンバーへの感謝の気持ちが一層強くなりました」
自分ひとりでやっているのではない。社員も、協力会のメンバーも、顧客も。関係してくれているすべての人が社の成長を支えてくれているのである。気持ちを新たにして事業に取り組んだ。
その頃から予実管理をしっかりやり始めた。福岡一になるためには100億の大台を目指さなくてはならない。そのための戦略を毎日練り上げていたのである。結果としての倍々ゲーム。福岡の不動産業者で一番になる。夢のような言葉が黒木の頭をよぎるようになったのである。
そんな中、黒木はあるセミナーに参加した。企業経営者向けの上場説明会である。そんなこと、黒木の頭にはまったく入っていなかった。上場できるのは大手だけではないのか。疑心半分でセミナーの説明に部下とともに出席した。
話しが進んでいくにつれて黒木は思うようになっていた。ひょっとして上場できるんじゃないか。その場にいた多くの経営者は話半分で聞いていたが、黒木は将来あるべき姿が見えたような気持ちになっていた。このスタイルの不動産業は福岡でまだどこも上場してはいない。最初の不動産上場企業になる。これは福岡でNo.1になることと同義ではないか。
セミナーが終わり、部下は言った。
「私たちには縁のない話しでしたね」
黒木は答えた。
「俺たちは上場できるんじゃないか。上場を目標に据えてみてもいいんじゃないのか」
【柳 茂嘉】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら