<二つの施策>
平成9年のこと。運もよかった。名古屋と美野島に1棟ずつ大型物件の受注が決まったのだ。合わせて20億円となった。従来の売上規模の約30億円と合算して平成9年度の決算では売上で50億を計上するに至った。上場を考えていた黒木は、それが実現されることを肌で感じた。
周囲の反応は相変わらずおおむね厳しいものではあったが、協力会のメンバーたちは応援してくれた。株式をたくさん保有しているから、上場してくれたら価値が上がる。ぜひがんばってほしい。黒木は3年後の平成13年の上場に向けて本格始動した。会社の仕組みを再構築し、書式を改める作業も加速させた。総務経理では連日の厳しい作業から疲労がたまり、高熱で倒れる者も続出した。それでも黒木は13年の上場に向けて突っ走った。
会社の仕組みをつくるだけで上場することはできない。上場に適する会社にするには、売上規模、利益を確保しなくてはならない。上場のための仕組みづくりの間も黒字決算を続けなくてはならないのである。社員は会社の利益を計算できるほどにまで成長していた。黒木はさらにモチベーションを向上させるために二つの施策を実施した。
一つは社員報酬の見直し。存分に働いてもらうために幹部社員には他社と比べても高い水準の給与を与えた。社への帰属意識を高めるとともに、生活を安定させることで仕事に没頭できる環境をつくったのである。
もう一つは決算賞与の導入である。決算賞与を出すことで利益を社員に還元する。これによって社員はより高い利益を求めるように質の高い仕事をしてくれるようになった。加えてコストを削減するための工夫を実践してくれるようになったのである。
社員一人ひとりが既存の仕事を充分にこなしてくれる環境が黒木に先を読むための時間を与えてくれた。この頃から5年先、10年先の需要予測を立てて事業に取り組むようになった。今の人口構成、福岡への人の流入量、大型公共事業の竣工予定などを加味して、これからどのような提案をすればより顧客満足を得られるのかを考えるようになったのである。先を読んで提案書を組むことで説得力も増した。マーケティングと組織の改善が黒木の主な仕事になったのである。
【柳 茂嘉】
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