<1,000億円失う恐れ>
前回まで、新聞事業の厳しい経営のことについて述べてきた。要は、構造不況業種に転落したということだ。(1)まず、購読部数が激減している事実。若者は新聞を読まない。コアなファンが老人だけでは、先行きはたかが知れている。(2)広告がネットに食われているので、新聞広告は様(ざま)がない。今後も(1)・(2)の要因が絡んで、複雑に売上減少が進行する。経営陣は全く無策の状態である。毎日新聞社は、本年度中にまたまた経営不安が再燃すると見る。
もう少し掘り下げた事実を露呈してみよう。朝日新聞社のバランスシートを参照していただきたい。愕然とする事実に直面する。「よくまー、傍観視できたものだ」と驚く。2008年3月期の売上は3,769億100万円から09年3月期は3,442億7,600万円と8.3%のダウンになる。10年3月期の数字は詰めの段階であるが、「3,200億円の攻防戦であろう」と言われている。
時代を5年さかのぼってみよう。05年3月期にはなんと4,068億9,300万円の売上があったのだ。05年3月期と10年同期との比較でいえば、6期の間に868億9,300万円の激減になる。率にすると21.4%だ。
さらに追い打ちをかけてみようか。来期の予想だ。関係者の予想だが、「2011年3月期の売上は、3,000億円にまで落ちるのではないか」と囁かれている。そうなると、決算6期間(足掛け7年)で1,000億円の売上を消滅させたことになる。これはもはや経営ではない。
<悪循環は加速化、そしてドロ沼>
これは朝日新聞社だけのことではない。各新聞社とも、他人様に対しては「再建の工程表が明確ではない」、「政治改革のプログラムが不鮮明だ」などと講釈を垂れてきた。この論調で飯が食べられてきたのだ。ところがこのザマである。逆に「自社の経営改革は、無策野放図状態であった」と批判されても仕方がなかろう。自社の売上1,000億円が跡形なく消えるのを、評論家然といられる神経に唖然とする。果たして、朝日新聞の看板を外して自立活動ができる人材がどれだけいることだろう。その数は少ないはず。どの時点で組織全体が危機感を抱いて、再生への炎が燃えあがるかは不明だ。
老人に頼っていれば、①の部数が一挙に減る時期がいずれやってくる。そうなると宅配コストに耐えられなくなる。日本固有の宅配所の方々の努力のおかげで玄関口に届けられていたシステムが崩壊すれば、部数は激減することは間違いない。そうなると②の広告収入は必然的に壊滅状態になる。「3,000億円死守!」と叫んでいたのが、一瞬にして2,000億円にまで急降下するという最悪の事態の想定も必要になってくるかもしれない。
登り調子の時代には、何をやっても良い結果がでる。別に特別な能力も必要はない。経営力がなくとも、業績は好調であった。新聞編集長が関連TV局に社長で天下っても、経営が務まっていた。
しかし、時代が逆転して下降線を辿りだすと、「有能と目されていた」人材も振るいにかかり、木偶の坊(でくのぼう)扱いされる。朝日新聞社に限らず経営ピンチに陥ったならば、果たして生え抜きのメンバーから再建の担い手たる経営者を誕生させることができるものか。見守ってみたいものだ。
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