地球温暖化対策基本法案が国会で審議され始めた。本案は温室効果ガスの中長期の削減目標を「1990年と比べ2020年に25%減、2050年に80%減」とする低炭素社会の実現を目指している。しかし、「25%削減目標は、主要国による公平で実効性ある枠組みの構築と意欲的な目標設定が前提」と条件を付しているのは、残念である。
集中豪雨、渇水、台風の巨大化等の異常気象をもたらす地球温暖化を防止するには、CO2排出量の削減は避けて通れない。
2020年のCO2削減目標を、EUは20%、英国は34%、ドイツは40%と定めて行動している。一方、我が国では25%の削減目標が厳しいのか、新聞紙上では「事業者の排出総量に上限か」「生産量当たりの排出量に上限か」と、会社経営の損益のみを相変わらず議論している。
我が国の1990年CO2排出量は12億6,000万トンである。したがって、CO2排出量25%削減の場合、9億5千万トンにしなければならない。2007年値が13億7,000万トンであるから、2020年までに4億2千万トンを削減する必要がある。
2007年、環境省へ報告された特定排出企業16,500社のうちCO2排出量ベスト15社は、電力10社、鉄鋼4社、セメント1社で、15社の排出量は我が国の総排出量の39%を占める。セメント社以外の14社は、石炭を燃やす企業である。発電を石炭に大きく依存する米国、中国が、京都議定書を批准しないというか批准できないのは、発電を安い石炭に依存しているため、発生する大量のCO2排出量をどうして削減するか、決めかねているからである。
CO2といえば、黙々と昇る工場の煙を想い浮かべるが、我が国の部門別CO2排出量を見ると、工場等の産業部門の2007年度値は基準年(1990年)値より1,000万トン削減され、排出企業には努力の跡がみられる。でも、25%削減にするには、更に1億トンのCO2削減が必要である。
産業部門より注視すべき点は、ビル・事業所の業務部門が7千万トン、家庭部門が5千万トンもCO2排出量が増えていることである。このため、1990年比で25%のCO2削減をするには、業務部門と家庭部門は、2007年CO2排出量を半分、量にして2億トンを減らす必要がある。
省エネルギー法に定めた第1種エネルギー管理指定工場(燃料3,000kl/年以上、電力1,200万kwh/年以上使用)は、2007年度末で全国に7,640事業所ある。事業所には、空港、県庁、市役所、浄水場などの公共施設、百貨店、スーパー、事務所ビル等が含まれる。省エネルギー法では、この指定工場に省エネルギーの強化対策を報告させたり、今年の4月から床面積が300m2以上の建築物は省エネ対策の義務づけを課す等を付しているが、政府からの助成はなく、CO2削減の効果は目に見えない。
このままでは、業務・家庭部門のCO2排出量を半分に減らすことは、不可能に近い。どうすれば25%のCO2削減が可能か、解決へのヒントを海外に求めてみる。
(つづく)
【藤井 利治(ふじい としはる)氏 略歴】
昭和19年9月生まれ。九州大学工学部卒業。
福岡市入所後、福岡地区水道企業団理事、下水道局長、土木局長、水道事業管理者、福岡アジア都市研究所副理事長等を務める。01年に渇水と節水をテーマにした論文で、福岡市職員では初となる工学博士号を取得。著書に『水を嵩(かさ)む』(文芸社刊)がある。
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