実態調査は「魔女狩り」か 縦割り行政が招いた構造的欠陥
<あなたはどう思うか>
あるクリーニング店を営む経営者は、「ロイヤルやきょくとうに同情するわけではないが」と前置きしたうえで、「もともと保健所(厚生労働省)からの要請で石油系溶剤をみんなが使っていた。不燃性のものは比重が高く土壌に染み込みやすいため、土壌汚染が発生する恐れがあるというのが理由だ。ただ、既得権というのがあって、商業地域でも昔から石油系溶剤を使っているところがたくさんあるということだ」と語る。
建築基準法の成立は1950年。それ以前に稼働していた工場、もしくは都市計画法が定める「工場の建築時には可燃性溶剤が制限されていない用途地域(工業地域、工業専用地域など)」だった場合で、その後に「可燃性溶剤が使用できない用途地域(商業地域、住居地域など)」になったものであれば、既存不適格建築物となる。これに関しては、一定規模以上の増改築や改修がなされなければ違法とはみなされず、操業停止などの行政処分が行なわれることはない。これがいわゆる「既得権」である。
「だいたい建築基準法自体が古いもので、今さら厳格化するのはおかしい」(前出の経営者)というのが多くのクリーニング業者の本音だろうが、もちろん法は守らなければならない。建築基準法が制定された頃より機械の性能も格段に向上し、出火の危険性も低くなったとはいえ、まったくのゼロではない。
取材過程で、「調査・指導が入る前に工場の移転をした方がよいのだろうか。あなたはどう思うか」と聞かれたことがあった。そのときは答えに窮したが、お金に余裕があるところはすでに移転を開始しているようだ。
事実、きょくとうは1月29日の「クリーニング業の健全な発展と社会的地位の確立のために」と題するニュースリリースで、「社内では既に平成21年7月から環境改善委員会を発足し、工場移転の実施、移転先土地の取得など改善を進めている最中」としている。きょくとう以外にも、移転先を探している事業者がすでにいるという話も聞かれる。
とは言え、そのようなことにすぐ取り組める事業者はごくわずかだろう。やはり、中小零細企業はこのまま泣き寝入りするしかないのだろうか。
【大根田康介】
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