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経済小説

飽くなき権力への執念 [45]
経済小説
2010年3月15日 14:09

野口 孫子

権力の全盛期 (8)

 「坂本が業者と癒着しているのでは?」と黒い噂が出る相手は、個人企業と思われるような小さな企業だった。坂本が名古屋時代の中小企業の瓦メーカーや、社員2~3人の弱小不動産だったりしていた。
 中村も零細な造園屋との癒着で黒い噂がでていた。
 過去、本社決済ながら、各地方の支店長に対して、分譲地および宅地の仕入れができる権力を与えていた。海千山千の街場の不動産屋には、若い支店長など、赤子の手をひねるようなもの。人の好い支店長などは、すぐにだまされて、金を掴まされ、売れもしない土地を買わされ、その挙句には会社を辞めざるを得なかった。
 これらはすべて、個人企業と取引するときの事件である。個人企業は経費の処理について、裏金だろうと、バックマージンだろうと、大企業と違い税務処理もしやすい。どうでも処理できるといっても過言ではない。生き残るために必死なのである。
 坂本も中村も、このような実態は知っているはずなのに、欲には勝てず従来より増して、業者への利益誘導の言動、指示をするに及んで、黒い噂は本当のこととして語られ始めたのである。
 坂本は、
「自分は治外法権だ」「何してもいい」
 と思っているのだろう。
 同様に中村も、「副社長だから、許される」ことと思ったのだろうか。
「経営のリーダーとしての倫理観を持ち合わせていない」
 と断じなければならない。

「主人の悪事を見て、諫言する家老は、戦場にて一番槍を突きたるよりもはるかに増したる心得なるべし」。
 徳川家康の言葉である。
 一番槍は命がけで、討ち死にしても、主君からは高く評価され、名誉は子々孫々まで称えられる。しかし、耳の痛い意見具申は主君に手打ちにされるか、閉門を申しつけられるかである。
 だからこそ、「それを覚悟で直言する部下こそ、何よりも大切にしなければならない」「家の宝」と家康は言ったのである。

 ワンマン社長坂本は、側近の甘言に喜び、直言を嫌い、おごった態度をとっていた。坂本に迎合的な報告しか上がってこない。家康と較べようもないが、山水建設の組織としては腐りきっていた。
 しかし、坂本と中村の蜜月関係も「時代の急変」で終わろうとしていた。

(つづく)

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