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経済小説

飽くなき権力への執念 [46]
経済小説
2010年3月16日 11:39

野口 孫子

不祥事の多発 (1)

 山水建設の坂本社長の「自分さえよければいい」という考えに基づいて、お手盛りで「役員たちの給料を倍近くまで引き上げ」たり、「ストックオプションに名を借りて1株をたった1円で1,000株以上を役員だけに割り当て」たりしながら、一方では、社員に対して「会社の業績不振による窮乏」を訴え、「昇給は昇格時にしかあがらないよう抑え込み、9月の賞与はカットする」ことをやってきた。
 おとなしい社員は「役員たちがおかしなことをしている」ことを薄々知りながら会社の存亡を優先するため、理不尽な要求に黙って耐えてきていたのである。
 開発事業での土地取引に絡む不動産屋からのバックマージンがあるとかないとか、常に、坂本には黒い噂が付きまとっていた。
 そのようなことから、会社全体の士気は極端に落ちてきていた。もはや創業者社長の山田時代の活気溢れる社風はどこにもなかった。役員をはじめ、幹部は坂本の顔色を見てしか、仕事ができなかった。
 既存の事業はバブルにもかかわらず、業績は微増にとどまっていた。
 一方、世界中からの投機的な金は不動産、都市開発事業に集まっていた。
 前述のように、土地の仕入れさえできれば、超高級マンション、超高層複合ビルが飛ぶように売れていた。その成功のため、山水建設坂本社長に起因する「問題点の本質」は表面化していなかった。大きな問題は元気なときは隠れてしまい、表面に出ないものである。
 業績好調で、坂本は中村の功績と誉めたたえながらも、本音は「自分の力だと」思っていた。なぜなら、大金を用意するのは、自分だからであった。
 このような折、坂本の出身地の名古屋地区において「一定以上の金額の建築現場には、1級建築士等を配置しなければならない」のに、配置してない「法令違反」があるという社内告発が数回にわたり、国土交通省に届けられた。国土交通省は構造計算偽装事件もあり、山水建設の名古屋地区の事業所に対し、「3か月の営業停止処分」と重い処分をしたのである。
 ここで重大なのは、坂本のお膝元から、謀反人が出たことである。このことは、坂本の名古屋時代の悪行に反感を持っている者が多い証拠であると思わざるをえない。
 過去、社内には社長宛て等に投書はあったものの、対外的にはなかった。
 山水の社員は「役員、幹部、社員は運命協同体」という思想が行き渡っていたので、自分の会社を貶める者はいるはずもなかった。
 しかし、今では、社内の士気の低下は目を覆うばかりになっていたのであった。

(つづく)

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