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企業、人 再生シリーズ

黒木透・再生への道(46)
企業、人 再生シリーズ
2010年4月 1日 11:23

<公開のメリット>

 株式を公開したことのメリットはそれだけではなかった。土地の仕入れがしやすくなったのだ。土地の購入において他社と競合した際、売主が株式を公開していることで安心して選択してくれるようになった。他社よりも一歩優位な条件の下で競争ができるようになったのである。

 また、売主が上場企業である場合、ディスクロージャーしている分、安心して売ることができるメリットもあった。上場企業が恐れることに反社会的な組織とのつながりがある。相手企業がどのような会社であるか分からないで取引することは、企業イメージを損なうリスクを犯すことになるのである。その点、株式公開企業であるディックスクロキは取引相手として理想的だったのだ。情報をすべてガラス張りにしているため、素性がはっきりと分かるからである。

 商売の基本である仕入れと販売。両者ともに有利にできるようになったのだ。これまで相手にされなかった企業との取引もどんどん広がり、それぞれの物件をきちんとまとめていく手際が信頼を生んだ。信頼は次の顧客を運んできてくれて、1棟が2棟、2棟が4棟と雪だるま式に物件数が増えていった。福岡と同様に東京支店でも実績が積み上がっていったのである。

 公開を果たした年の決算(2001年3月期)が売上高で95億円だったのに対し、翌02年には96億5,000万円、03年には144億2,000万、04年には156億と、まさに右肩上りの状況が続いた。社としても拡大路線を続け、東京事務所は支社に成長し、赤字覚悟での出店が事業の柱のひとつへと変貌を遂げた。

 追い風は必要なかった。公開前はときの浮き沈みが成長を後押しした。換言するならば、時流に帆を張る帆船だったのだ。それが今では立派なエンジンを備え、自分の思うように動かすことができるまでに成長したのだ。

 黒木は心底から嬉しかった。在籍してくれている社員をはじめ、協力してくれているパートナー企業たちに喜んでもらえているからだ。株式を公開してよかった。個人としての自由は収入とともに目減りしたが、そんなことは大した問題ではなかった。子の成長を願うように、黒木は社の成長を心から望み、それがなされていっている実感を味わっていたのである。

(つづく)

【柳 茂嘉】


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