<マリアクラブ跡地竣工>
一棟売り。ディックスクロキが得意と言われるようになる手法だ。この手法による最初の大型物件が件(くだん)のマリアクラブ跡地である。2002年、外資系投資ファンドに提案したプロジェクトは順調にスタートを切った。廃墟と化していた元マリアクラブの建物は取り壊され、新たな命が与えられようとしていた。
その工事風景を見、福岡ではしきりに噂がささやかれていた。
「ディックスがマリアクラブを開発している。あんなに荒れた場所、どういじったところでどうにもならないだろうに」
「一体、何を考えているのか分からない。あそこは死んだ土地。よみがえらせることなどできるはずがない」
「治安が悪くなりすぎている。マンションを建築するなど考えられない。どうせ住む人は誰もいないだろう」
こんな言葉ばかりが連ねられ、冷ややかな視線が注がれ続けた。こんな声を黒木も伝え聞いてはいたが、必ず成功するという自信から聞こえないフリをしていた。
工事が進むにつれて、マンションのプロジェクトの全貌が明らかになっていった。天神の中心地である親不孝通りに当時の福岡最大級のマンションが見えてきたのだ。15階建て全332戸。ディックスクロキとしても、福岡はもとより九州としても最大級の建物だった。超大型物件である。投じた金額も大きい。その分、うまく運べば見入りも莫大なものになる。着工から2年の歳月を要し、2005年の竣工を迎えた。威風堂々とした賃貸マンションが福岡の中心にできあがったのだ。
竣工後、さっそく入居者を集めた。黒木の思い描いたとおり、利便性のよさから入居者は殺到した。これで引き渡せる。黒木は安心したに違いない。外資系ファンドへ無事に引き渡すことができた。
42億3000万円で無事に売りさばいた。後の管理まで引き受けるため、管理戸数を大いに引き上げることにも成功した。周囲の視線もどこ吹く風と言わんばかりにやり遂げたのである。この経験は黒木に大きな自信を与えることになった。
大型物件でも充分に対応できる。そして、大きな物件は注目を集める。注目を集めることができたら、受注環境、仕入れ環境がさらによくなる。よい循環がより完全なものになったかのように感ぜられた。この物件の42億円があって、2006年3月期は売上202億円、経常利益5億9,000万円を計上するに至ったのである。
【柳 茂嘉】
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