接客サービスをウリにしている店なのに、お通夜のようなシーンとした雰囲気のなかで酒を飲む。不景気を地肌で体験できる"新手の演出"だろうか。そんな場面に遭遇する機会も珍しくなくなってきた。このままいけば、中洲が『平成大不況テーマパーク』と化してしまう日も近いのではないだろうか。
先日「ヒマだから飲みに来て」なんて、失礼千万な営業メールを送ってきたキャバクラ嬢がいた。客はボランティアではない! そのキャバクラ嬢は、過去に1度、小生のテーブルに付いただけ。以後、音沙汰ナシ。顔もはっきりと覚えていないのだ。
経験上、そういう店に限って、行けば死んだ昆虫に群がるアリのように客へとたかる。ヒマな店で、キャバクラ嬢数人に囲まれる"ハーレム状態"になったら注意すべきだ。悪質な店は、会話にも参加せず、人知れず、ただひたすらに別料金のドリンクをがぶ飲みしている女が必ずいる。少ない客から少しでも売上を上げようとする。そこはもう戦場だ。厳しいノルマを課せられた兵士(キャバクラ嬢)たちは、間隙をぬって急襲をかけるゲリラ戦を展開しているのである。
そんな現状を憂い、やたらと悲観的になっていた小生。そこへ「待った」をかけた店が現れた。中洲大通り沿いに、やたらと明るい声を店外へも響かせているスナックがある。第21ポールスタービル2階にある「メンバーズ あかり」である。
同店は、中洲歴40年の節子ママが切り盛りしている。
「お客がいるときはもちろん、いないときでも店の従業員同士で酒を飲んで盛り上がる。飲みに来てくれたお客に癒しと元気を与える」。それらが節子ママの"中洲哲学"だ。初めてでもアットホームな雰囲気で「楽しい酒が飲める」とリピーター率は上々。常連客のなかには「ここが第2の故郷よ」と言うものまでいる。
同店を訪れた客は皆兄弟、いや大家族になってしまうだろう。気付けば肩を抱き合い、カラオケを熱唱する。「こういう時だからこそ、私たちがお客さんに元気を与えないかんと」と、同店の美人ホステスたちは口を揃えて言う。『笑う中洲には福来る』。そんなフレーズがふと頭に浮かんだ。やはり楽しく飲む酒は旨い。
料理とともに楽しむ酒もあれば、ひとり静かに飲む酒もある。だが、中洲の酒には、仕事帰りのストレス解消や、ビジネス上の接待の場という重要な側面がある。当然、そこに求められるのは"楽しく明るい酒"だろう。中洲は、福岡経済界に元気を与え続けてきた存在だ。決して灯を消してはならない。
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら