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特別取材

ビタミンのはなし(11)~ビタミンEの抗酸化作用
特別取材
2010年4月13日 08:00
伊藤 仁

 1922年にアメリカのエバンスとビショップはネズミの妊娠に必要な食事因子があるのではないかとし、それを未知の物質「X」と報告した。翌年、彼らはこの「X」が脂溶性で小麦胚芽、オートミール、アルファルファ(牧草)に存在することを発見し、シュアーがこの物質をビタミンEと命名した。
 36年に、エバンスはドイツのウィンダウスやブテナントと協力して3種類の結晶を得ることに成功し、α、β、γ―トコフェロールと命名した。トコス(Tokos)は(子を産む)という意味である。38年に、ビタミンAの化学構造を決定したスイスのカラーが、α―トコフェロールの有機合成に成功し、ロシュ社が工業生産を開始した。
 1922年から41年にわたり動物における不妊症、筋ジストロフィーなどのビタミンE欠乏症が報告されているが、ヒトでの必須栄養素に認定されたのは68年だった。80年前後に欧米で、長期の脂肪吸収不全により発生し重篤な身体障害をもたらす進行性筋ジストロフィーに対し、ビタミンEの大量投与によりその進行の阻止・回復あるいは予防が可能になった。また、未熟児に発生する未熟児網膜症や脳室内出血にもビタミンEの投与が有効であり、予防効果のあることもわかった。ビタミンEは当初、不妊症のビタミンとして知られていたが、現在ではその重要な生理作用は抗酸化作用にあり、老化ないし加齢に伴う様々な疾病の予防に有効であるとされる。
 ヒトは酸素を呼吸して生命活動を維持しているが、体内に入る酸素の98%が正常な呼吸過程で水に変換され、残りの2%がフリーラジカルに変換される。このフリーラジカルは細菌に対する防御機構として貴重な役割を果たす一方で、活性酸素として細胞に損傷を及ぼし、ガン、血管系疾患や老化をもたらすとされる。ビタミンEは抗酸化作用を介して生体膜を安定化させ、生体膜の酸化を防ぐ。すなわち、フリーラジカルを消去する抗酸化作用という大きな働きがある。サビ止めのビタミンとして生活習慣病を含め、ヒトの老化を防ぐ働きがあると考えられる。

(つづく)

<プロフィール>
伊藤 仁(いとう ひとし)100308_ito.jpg
 1966年に早稲田大学を卒業後、ビタミンのパイオニアで世界最大のビタミンメーカーRoche(ロシュ)社(本社:スイス)日本法人、日本ロシュ(株)に就職。「ビタミン広報センター」の創設・運営に関わる。01年から06年まで(財)日本健康・栄養食品協会に在籍。その間、健康食品部でJHFAマークの規格基準の設定業務に携わる。栄養食品部長を最後に退任。

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