「拉致」と聞くと思わず心配してしまいますが安心してください。これは、昨今における中国の不動産業界と沿海都市部の地方政府との関係をたとえた表現です。今、拉致者(不動産業界)と被拉致者(地方政府)は仲良くなっています。お互いに手を組んで励まし合いながら、恋焦がれていた夢を迎えているのです。
近年、中国の不動産業界は、まるでスペースシャトルに乗っているかような急成長を成し遂げました。国内をはじめ、世界の人々にサプライズやショックを与えました。そして、これからも与え続けるでしょう。
その一方で、あまりにも物価が高騰しすぎており、幅広い層からの不満、不安の声などが日々の新聞やテレビに満載しています。中央政府から地方まで、そうした不満を取り扱う記事がマスコミの隅から隅まで溢れています。
そのうち地方政府は苦渋の選択に迫られるでしょう。民衆の不満に対応しなければ世論無視となりリスクが蓄積されます。しかし、対応すれば、自分の首を絞めることにもなりかねません。
その背景には、不動産業界との深い関わりが伺えます。
今、中国の税制体制のなかで不動産業に関する税金は、地方政府の財政収入となっています。統計によりますと、上海市政府の2009年度における土地使用権(期限付き)の売上は、1,000億人民元(約1兆4,000億円)を超えました。これは、前年度の財政収入の3分の1です。買っているのは不動産業界。このほかにも物件の売買によって、それに課せられる多額の税金が納められました。言うまでもありませんが、値段が高いほど税金は多くなります。このふたつを合わせれば、財政収入の6割を占めることになります。
この、まさに"ドル箱のような存在"を大切にしなければいけない。ある意味で、地方政府はもう不動産業界に引っ張られていると言えます。もはや、簡単に「NO」を口に出せなくなっています。不動産業界は、地方財政へ貢献することで、『地方政府が重視せざるを得ない、切り離せない地位』を得たのです。
(つづく)
【劉 剛(りゅう ごう)氏 略歴】
1973年12月生まれ。中国上海出身。上海の大学を経て、96年に地元の人材派遣会社に入社。10年3月より福岡に常駐。趣味は読書。
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