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新聞流動化元年 なりふり構わぬ瀬戸際の新聞業界(上)
深層WATCH
2010年4月27日 10:51

 朝日新聞と読売新聞といえば、記事づくりから部数争いまで巨大メディア産業として凌ぎをけずってきた仇敵同士。その両紙が今月から記事を共有化するという驚天動地の展開があれば、日経は有料電子版を創刊。さらに読売は落ち穂拾いさながら、些細なポスティング業務まで入り込むなど、全国紙の置かれた窮状をさらけ出している。

<大手紙の相互補完>

 「発表は社内でも極秘に進めていたようで、社員の大半が当日にウチの記事を見て知ったんじゃないですか」というのは、朝日新聞のベテラン記者。件の記事は、3月31日付朝刊社会面に掲載されている「朝日と読売が連携」という小さな記事。「朝日新聞と読売新聞は4月1日から鹿児島県の一部地域で記事や写真の相互配信を始める」というものだ。これについては「Net- IB」で既報している通りだが、「地域取材網の強化と紙面の充実が目的」として、自治体発表や季節写真を相互に記事提供し合うというものである。
 同様の記事は同じ日に読売側からも「鹿児島で取材連携 読売新聞と朝日新聞」との見出しで、やはり社会面で小さく扱われている。いずれも東京版だが、事実のみを素っ気なく伝えることで「衝撃をやわらげる」(前出の朝日新聞記者)ことに両紙が腐心した様子をうかがわせる。ただ、鹿児島県を統括するそれぞれの西部本社版は、もう少し丁寧かつ詳細に社告扱いで説明している。
 それによれば、記事を共有するのは鹿児島県の一部地域の自治体発表ものや行事の告知、季節写真に限定するという。霧島市や伊佐市方面は朝日新聞霧島支局が、指宿市や枕崎市方面は読売新聞指宿通信部が発信したものを相互に利用する。ただ、紙面化するか否かは双方の編集判断で、掲載する場合は『朝日讀賣地域取材特約』というクレジットを入れる。したがって、「独自の取材や編集の独立性に変わりはなく、今後も競争を続ける」と異口同音に述べている。
 簡単に言えば、自社が手薄なところは相手に任せ、互いにムダなコストを省こうというところで利害が一致したかに見える。とはいえ、違和感は拭えない。両紙は良く言えば机上で切磋琢磨、悪く言えば机の下で足の蹴り合いをしてきた仲。それが「自治体発表そのままなら問題なし」とするのは独立性の放棄であり、地域における取材網の強さと弱さを補完するためというならば、全国紙同士は当然、全国紙と地方紙の提携など、今後の新聞の在り方に限りなく波紋を拡げるものだからだ。
 自治体発表もその背景にはさまざまな事情がある。地域に根ざす地方紙なら虫瞰的視野から、全国紙なら他の都道府県自治体を念頭に鳥瞰的視野から自治体発表を消化して記事にするからこそ全国紙、地方紙それぞれの存在意義がある。「独自取材を妨げるものではない」としているが、手薄になった取材網でそれができるのか。両紙は主義主張、社風も対称的。しかし、今回の部分提携が「蟻の一穴」となり、『朝日讀賣地域取材特約』記事が増える危うさを感じさせる。

(つづく)

恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。


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