<弱い者イジメか、戦略か>
その讀賣グループで注目すべきなのが広告部門。同グループには讀賣インフォメーションサービス(讀賣is)という新聞折り込み広告制作、配布会社がある。讀賣本体の出資で1976年に設立され、まず首都圏、ついで関東、さらに東北の各県都に子会社、関連会社を設立。それぞれ地元販売店と連携しながら新聞折り込みの広告、チラシを受注制作している。
これらグループ各社のなかで特異な動きがみられるのが秋田讀賣is。というのも、同社は昨年から秋田市の広報誌「広報あきた」の宅配サービスも始めている。それも、異常な低価格で落札した結果だ。
自治体広報誌は全世帯に配布されるが、部数的に県都のそれがもっとも多いのは当然。東北では仙台が約45万部と突出しているが、盛岡や秋田など他都市は12~13万部前後。配布はほとんど町内会組織を通じて行なわれているが、例外は秋田ですべてポスティング業者に委託している。その入札に秋田讀賣isが参入したのは昨年。「昨年が1部2.6円、今年は2.1円でいずれも秋田讀賣isが落札しています」(秋田市広報課)という。
配布するものによって価格は異なるが、広げるとB4からA3になる数ページのものは首都圏でも1部7~9円。45万部のうち3~4万部だけ業者に委託している仙台市も「1部8.7円」(同市広報課)という。それが秋田は13万8,000部あるとはいえ、27~28万円にしかならないものをなぜ讀賣isが受注するのか。「広告が減っているし、宅配のノウハウも生かせる」(秋田讀賣is)というが、説得力に欠ける。
そこで注目すべきは、同市からポスティング業務をこれまで受注していた一社が、地元紙の代表格秋田魁新報社であること。「2.1円なんて絶対にペイしない。讀賣is本社はもとより讀賣本体の指示もあるんでしょうか」と秋田魁関係者は讀賣の狙いに疑心暗鬼。傍目には弱い者イジメにしか見えないが、新聞業界の流動化を睨んだ讀賣グループの戦略的な動きとすれば今後の展開に目が離せない。
(了)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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