<請負業を超える新事業の萌芽>
北洋建設といえば昔は「電電公社に強い」という印象しかない会社であった。この会社が第1次バブル、第2次バブルを潜りながら着実に企業体質を強化し注目を浴びるようになった。2007年10月期に114億円の完工高を記録した。無借金の財務内容も関係者に驚嘆の念を与えた。「デペとの取引をしないのにどうして」とか「100億も上げるような現場がない」といった陰口も叩かれてきた。しかし、福岡における格付けでは上村建設に次ぐ二番手の評価を確立したことを否定する者はいない。
この躍進の原動力を説明するには、20年以上さかのぼらなければならない。その頃、2代目を継いだ脇山彰治氏は『新築建築の請負を超えた事業』を追い求めていた。辿りついたのがFM事業の概念である。FM事業について、北洋建設ホームページには「資産の維持保全・再生を、適度なリニューアルとメンテナンスにより実現していくこと、それがファシリティマネージメント(FM)です。この分野を担当するのが、FM事業部。当社は、これまでの経験を踏まえ、また時代の要請にも応えて、改修工事を中心に担うFA事業をいち早く設立。マンション大規模改修工事に特化したスペシャリスト集団を形成し、幾多の実績をあげています」とある。
住友林業に勤務していた脇山彰治氏は長年、『請け負けしないビジネス』を模索し、FM事業に辿りついた。人知れず事業化するのに10年を要した。しかし、業界が同事業に注目し、盗み取りを始めた時には北洋建設は遠い先を走っていたのである。一方で、住友林業住宅事業部から九州一円(一部本州もある)の戸建建築を受注してきた。この2事業で受注を伸ばした。人知れず、バブルの風に乗らず、小口の工事を集積し、自前の実力を蓄積することに励んできた。10年前にライバル社が気づいた時にはもう遅い。同社は、遠い彼方に去っていたのである。戦略思想の優位性で他社を圧倒した例と言えよう。
<ストックビジネスの先駆者>
コロンブスの卵ではないが、ストックビジネスの重要性を説くのは容易い。上村建設が「福岡一から九州一」への地位を築けるまでになったのは賃貸管理ビジネスを組み立てられたからである。上村建設の創業者の偉大さはストックビジネスの先駆けであったことだ。アパート建築のオファーを受ければ、当時の建設業経営者の誰もが畳に頭をこすりつけるほどに感謝の念を表明してきた。ところが上村建設の創業者は冷めていた。「この請負業に満足していては駄目だ」。そして『請負を縁にして永続できる商売』を追い求めた。至った結論は『アパート管理業』であった。
都市・福岡の発展に伴い、農業従事者がアパート業へ転じていった。この流れを読んで福岡および周辺地域の農協に食い込んでいったのだ。その集積が管理物件戸数25,000戸である。この事業を担うのがハッピーハウスという会社だ。入居者の撤去の入れ替えによるリフォーム工事だけでも年間20億円あるといわれる。ハッピーハウスは上村建設の優秀な子会社という存在を超え、親と一体化した事業展開で同業他社の差を開けたのである。バブルの風に乗ることなく確実に地力を蓄えられたのだ。上村建設は独立独歩の道を極め、業界に君臨してきたのがこの20年である。
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