<ベテラン職員が痛恨の経理ミス>
4月28日、福岡市は職員の懲戒処分を公表した。処分理由は「公費の不適正処理」。2004年度から09年度までのパソコンおよびコピー機のリース代、計953万9,127円と、08年度のタクシー代、印刷消耗品費、職員の出張旅費など計42万9,374円を、公費で支出される費用にも関わらず、申請せずに自らの金で立て替えたことによる。その累計額は約1,000万円。その金額の大きさからいっても前代未聞。なぜ、職員がそれほどの身銭を切ることになったのか疑問はつきない。そこで、福岡市へ取材を行なったところ、事の一部始終は以下の通りであった。
問題を起こしたのは、当時、市の住宅都市局に務めていた58歳の職員A。2004年に同局へ異動となる以前も庶務や経理を行なってきたベテラン職員である。社交的で明るい人柄で、仕事もでき、信頼されている人材であったという。それだけに、今回の事件が発覚したときは「まさか、あの人が?」という声さえ起こった。どちらかと言えば頼られる存在であり、基本的な事務処理は完璧にこなしていたという。
発端は、04年の部署再編であった。住宅都市局内のふたつの部署が合併し、ひとつの課になった。Aが同局へ異動したのは合併直後。当時、職場は再編後の処理で慌しかったという。そのような状況下でAは、業者と継続契約をする際、予算に『パソコンおよびコピー機のリース代』が足りないことに気付く。当然、足りないことを上司(係長)に申告しなければならない。この点について「1度申告した」とするAと、「覚えていない」とする当時の上司の間で意見が食い違っている。また、Aは「すぐに予算措置が取れないから、業者に支払いを待ってもらえと言われた」と主張している。
とはいえ、その後も繰り返し金が無いことを申告すべきなのだが、「伝わっている」と考えていたAは2度と上司に催促しなかったという。当然、リース業者から請求がくるが、市役所が相手ということもあり、執拗な請求は行なわれず、A以外にも話をすることがなかった。そして、Aは泥沼へとはまっていく。
<不足のまま組まれ続ける予算>
結局、Aは予算の不足分を再び申請することなく05年5月末を越した。04年度のリース代は公費から支出されることなく、次の会計年度に入ってしまった。もちろん、リース代が不足したままの金額で新年度の予算は組まれる。この時点で、自分のミスが発覚することを恐れたAは、ついに「言い出せない」状況に陥った。
一方で、Aの職場環境が目まぐるしく変わっていったことも事件の背景にある。事件発端当時の上司が退職し、新しい上司へと変わった。その後、事件発覚までの間、直属上司が3人も入れ替った。退職した元上司を含めると、事件に関与した直近上司は計4人(その上に課長がひとり)である。
そもそも彼らが、引継の際、部署の経費についてしっかりと確認を行なっていれば、もっと早期に発覚していたはずである。ベテラン職員のAを「信頼できる人物として認識していた」と上司のひとりは話す。だから、Aの仕事に口を挟むことを遠慮していたとでも言うのだろうか。市に確認したところ、決して把握できないほどの大量の項目で経費が使われていたわけではないという。
【山下 康太】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら