<凄まじい権力闘争の果てに堕ちたJAL>
朝日新聞出版から「堕ちた翼」(ドキュメント・JAL倒産)が発刊された。書き手は大鹿靖明氏である。同氏は朝日新聞社の経済記者として長年、活躍してきた。現在、アエラ編集部に出向して次々にスクープ記事を連発している。前回出版した『ヒルズ黙示録、検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』がヒットし話題となった。ドキュメントタッチの経済レポートに関して第一人者の評価を得ている。
『堕ちた翼』を読んだ第一の所感であるが、「JALという組織は株式会社という組織でもなく官の組織でもない責任を取らない組織の集積である」ということだ。また「JALの権力は魅力ある名誉をくすぐるものであること」も知った。過去において自民党政治家たちと官僚たちが都合のよい干渉と利用をしてきた。JAL経営陣・幹部たちはまたこれらの権力たちを悪用して社内抗争に悪用してきたのである。だから自前の当事者能力はゼロ。無責任体制が蔓延(はびこ)っていた。倒産するのは当然である。可哀そうだが、JALの社員達は世間では使い物にはならないだろう。「1985年の日航機墜落の時に倒産させるべきであった。そうであれば今回の事態には陥らなかった」と痛感する。
前原国土交通相はJAL再生の役割を担う「タスクフォース」を発足させた。リーダーには高木新二郎、冨山和彦の面々を結集させた。元産業再生機構の中心を担ったお歴々である。財務省・国土交通省の官僚たちはお手並み拝見と傍観視した。「冨山という男ならば民間から資金を引っ張ってくれるかな」という虫のよい淡い期待も抱いていた。だが、「市場からの資金調達が無理」と判明すると財務省官僚たちは冨山パージを仕掛けた。官僚たちの身勝手さには辟易するが、凄まじい権力闘争をするのが好きな人種なのだろうか。
<民主党でも権力闘争の端緒が切り拓かれる>
面白いのは権力を握った民主党内での権力闘争の萌芽が育ちだしたということだ。前原、管それぞれの大臣の立場でJALの処理を巡って対立するのでない。ふたりの政治手法の違いから軋轢を生み方針の食い違いが決定的になる。野党時代には隠蔽されてきた食い違いが鮮明になったのは興味深い。具体的には前原、管を代表する民主党の政治家たちの今後の離散集合の結末が予想されるのである。
自民党時代には両大臣が対立・衝突する事態が惹起するとなれば役人たちが収拾に奔走するのが常であったのだが、民主党政権においては違う光景が目撃された。民主党の副大臣・政務官が調整に飛び交うのである。これらの若手の政治家たちは与党政権下での貴重な政治体験をしている。言葉を代えれば民主党は民主党なりに政権与党として経験蓄積が深く進行していることがこの本を通じて理解できた。
京セラ名誉会長の稲盛和夫氏がJALの会長に就いた。同社の再生を無事に達成したならば稲盛氏は「戦後の最大の経営者」という栄誉に浴してよい。しかし、現実のJAL再生の道は非常に険しい。是非、一度、読んでいただきたいものだ。
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