<繰り返される不正経理の連鎖>
2005年3月、Aとは別の市職員が、自己の事務処理の遅れから公費100万円を立て替えるという問題を起こした。その職員が立て替えたのはふたつの家庭に対する生活保護費である。Aの場合と同様、市は「公金の不適正処理」として戒告処分を与え、内容を公表し、市職員全体へ注意喚起を促した。
しかしAは、その約2年後に同様の行為を行なった。07年5月、自らの預貯金を切り崩して、リース業者へ未払い金をまとめて払った。これが第1回目である。その後も、予算上リース代がすっぽり抜けているわけだから、当然、未払いになり、請求が来る。Aは自分の金で立て替えるという行為を09年度まで、7回繰り返した。支払った金額は全部で953万9,127万円にのぼる。
「職場では悩みを抱えているそぶりは見えなかった」と関係上司は口を揃えるという。しかし、08年度になって、Aはストレスから体調を崩してしまう。仕事にも支障をきたすようになり、ついに今まで完璧にこなしていた他の経費についても事務処理が滞るようになった。そして、同年度のタクシー代、印刷消耗品費、職員の出張旅費などの一部分、計42万9,374円も立て替えて支払った。
<深刻な問題は人知れず進行する>
問題が発覚したのは09年4月末。Aが部署を異動し、その後任の職員へ、未払いのタクシー代などについて業者から問い合わせがあり、発覚した。その後、調査が行なわれ、Aはパソコン、コピー機のリース代立て替え行為についても告白した。
そして、立て替えの不正経理については、過去最大の処分となる「10分1の減給」がAに下された。ただし、これまで立て替えた分については、市が代金を業者へ支払ったのち、業者からAへ返金されるという。
Aの問題の背景には、"タテ割り行政"に見られる「ほかの人(部署)の仕事に関与しない」という公務員体質がうかがえる。そうした体質を、上司・部下の関係にも持ち込むのはさらに問題だ。「前任の係長から何も言われていないから大丈夫」だけではなく「ベテラン部下のAが何も言わないから問題が無いだろう」というのは、いかにも無責任である。一応、Aの問題に関係した上司4人(退職者を除く)はそれぞれ監督責任を問われ訓戒処分を受けている。
ただしAの問題は、決して公務員だから起こったというわけではないだろう。得てして組織は規模が大きくなるにつれ、部署ごとの専門化が進み、"タテ割り型"へ陥りやすい。本当に深刻な問題は誰もが気付かないところで進行する。だからといって、全てを疑えと言うのではない、効率的かつ自動的に不備が見つかるチェック・システムを構築しておくことが大事なのではないのだろうか。
【山下 康太】
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