投資額は世界標準に近づく
日本の建設業の特徴は、重層的な下請構造にある。建設業そのものは労働集約型の産業だが、同じ型の製造業に比べて生産性が悪い。仕事が元請から下請、孫請や専門工事業者へ発注され、間接部門の占める比重が必然的に高くなるためだ。1つの物件として見た場合、不必要な諸経費が膨らんでしまう。こうした構造は、建設市場が拡大する日本経済の成長期には重要な意味があった。前述したように、92年当時はGDPの17%を超える巨大市場であり、巨額の建設投資が元請から下請、孫請へと流れていくことで、600万人を超える雇用が維持されていた。だが、市場が縮小に反転したことで競合が激化し、仕事の多重構造が利益の圧迫に拍車をかけた。
建設業界の縮小が加速度的に進み、ファンドブームによる一時的な持ち直しの時期はあったものの、再び急速な縮小に見舞われていった。92年に84兆円あった建設投資は、09年度見通しでは42.3兆円。大手ゼネコンは09年度で売上高が10%減少、受注高は30%減少という状況であり、10年度の建設投資見通しは38.5兆円まで落ち込むことが予想されている。09年度でピーク時の半減、10年度ではさらにそこから10%近く落ち込み、40兆円割れをする可能性が高い。これは77年と同水準だ。
GDP対比で見た場合、日本の建設投資額は他の先進諸国と比べて突出していた。40兆円を割り込んだとしてもGDP対比で8%程度の水準であり、これは他の先進諸国と比べて決して低い数値ではない。言い方を変えれば、グローバルスタンダードに近づいたとも言えるだろう。だが、拡大期から縮小期に移行していくなかで、日本全体の成長が停滞し、建設業界に変わる雇用の受け皿も見つからないため、建設業界が圧迫される格好になっている。
官依存の悪しき体質
建設業者は、他業種と比べて官に依存する傾向が強い印象がある。政府系建設投資、いわゆる公共工事は建設投資ピークの92年で32.3兆円。政府系建設投資のピークは95年の35.2兆円だ。潤沢に発注される公共工事に依存することで、建設業者は利益をシェアしてきた面があるのは否定できない。
だが、10年度見通しでは政府系建設投資は15.7兆円の予想であり、ピーク時にGDP対比で7.1%あったものが3.3%にまで減少することになる。もはや、官に依存していては成り立たない時代に入っている。
官依存では、すでに生き残りが難しい時代に入っているにもかかわらず、建設業界全体にはその体質が色濃く残ってきた。発注者である官に異を唱えることをためらい、不条理な入札制度を受け入れ、理不尽な競争状態に置かれることに甘んじてきた。過去の成功体験が変革を阻害し、世襲の多い業界体質がその傾向に拍車をかけたとも言えるだろう。
このような業界を、マスコミは十把一からげに「官との癒着」、「談合の温床である業界」と責め立てた。成長期にある業界であれば、だんまりを決め込むことで利益を享受することもできただろう。しかし、成熟期を過ぎて衰退期に入った業界では、物言わぬ姿勢が負の連鎖を呼び込み、悪循環に陥っている。リスクの割に利幅は薄く、規模の割に利益も出ない建設業者が溢れる状況になっている。
【緒方 克美】
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