いち早く抜け出た勝ち組
厳しい業界環境にありながら、一方で着実に利益を上げている建設業者もいる。それは、建築請負からの脱却を目指し変化を遂げてきた建設業者で、現在の福岡を代表するゼネコンはいずれも建築請負にとどまらない事業展開を図ってきた企業だ。
地主に対して相続税対策や資産運用を提案する企画提案型の展開で、建築だけではなく管理にかかわるストックビジネスを確立した企業、リフォームに強みを持ち、プレゼン能力を高めることで営業効率を高めてきた企業、介護・福祉関連にいち早く着目し、複合的な建築ビジネスモデルを構築してきた企業―などがある。
こうした企業は、従来の建築請負型の建築業から建設サービス業とも言うべきビジネスモデルに進化を遂げている。従来型の建築請負業では、設計事務所や発注者のところに営業へ行き、依頼通りに建築物を完成させることで一定の利益が確保できていた。だが、市場縮小や競合過多の状況では最低限の利益も確保できない状況に陥る。勝ち残ってきた建設業者は、他社とは違う視点で新たなビジネスモデルに取り組んできたところばかりだ。
長年培ってきた信用を保ちながら、大手ゼネコンにはない地場密着型の強みを生かしつつ、同時に新たな取り組みを行なってきた建設業者しか生き残れなかったとも言えるだろう。
是正すべき歪んだ市場原理
業界として抱える問題は、数多くある。公正な競争原理が働かない点は、とくに問題だろう。これまで述べてきたように、業界が大きく縮小していく過程では、本来なら淘汰されるべき企業は淘汰されなければならない。市場原理のなかでは、競争力がない企業が生き残ってはならないからだ。淘汰されるべき企業が市場から去ることで、業界内の需給バランスと秩序が保たれるのだが、建設業界は歪んだ競争を長年にわたって続けてきた。
現在の準大手クラスのゼネコンには、過去に巨額の債務免除を受けた企業が数多くある。法的手続き申請後に新たなスポンサー(主に他のゼネコン)の傘下に入ることで、統合・再編したゼネコンもあるが、法的手続きに頼らず、債務免除後に自主再建を進めているゼネコンも多い。本来であれば市場から退場すべきゼネコンが居座ることで、競争の激化に歯止めがかからなくなる。
さらに、債務免除を受けて身軽になったゼネコンは価格競争力がアップした状態で再び市場に参入してくるため、とめどないダンピング受注が繰り返されることになる。この煽りが地場ゼネコンにまで波及してくることで、体力の弱い地場ゼネコンは息の根を止められてしまうことになる。
日本の建設業界の特徴である多重構造を盾に、「全国規模のゼネコンを倒産させてはならない」との理屈がまかり通ってきた。下請、孫請への影響が大きいために連鎖倒産が出る可能性が高く、また多くの雇用機会が失われるとの理由からだ。
だが、結果として、公正な競争が阻害されてきたことで、いまだ悪循環から抜け出せない状況にある。雇用の確保や下請、孫請の連鎖倒産といった問題に対しては、本来ならセーフティネットの整備で対応すべきであり、あくまで企業間の競争は公正でなければならないはずだ。ここにメスを入れない限り、業界の健全な競争と秩序が回復することはないだろう。
今は建設業界にとって産みの苦しみの時期かもしれない。ここを乗り越えたときに、「建設新時代」が到来するはずである。その日が早く訪れることを願ってやまない。
【緒方 克美】
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