吉田宏福岡市長は、「市民の利益」には無頓着だった。市トップの判断ミスが大きな損失を招きそうだ。
今年3月、福岡市の第3セクター「博多港開発」が、必要のないケヤキと庭石を購入したとして、元同社社長・志岐真一被告、元市議・西田藤二被告、元同社常務・大庭樹被告の3人(いずれも商法違反で有罪判決を受け上告中)を相手取り、約7億8,000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が福岡地裁であった。
判決は、同社の請求をほぼ全面的に認め、被告側3人に約7億800万円の支払いを命じたが、この結果は市民にとって必ずしも歓迎すべきものではない。結論から言うと、博多港開発は取り戻せたはずの1億円あまりの金を放棄した事になるのだ。
この裁判は、人工島事業を巡る「ケヤキ・庭石事件」に絡み、刑事裁判と平行して行われていたが、奇妙な経過をたどってきた。
裁判当初、志岐被告側から和解の意思が示されたが、福岡市の意向で博多港開発側がこれを拒否。しかし、裁判が進む過程で、今度は博多港開発側が志岐被告側に和解を提案したのである。
理由の一つは、事件当時の取締役らに対し、志岐被告側が責任を追及する可能性があったためとされる。ケヤキ・庭石の購入は、社外を含む取締役全員が責任を負うべきとする考え方が成り立つためで、そうなると当時の取締役全員が損害賠償請求の対象となる。博多港開発としては、そうした事態を回避するため、和解への道を選んだという。
だが、和解を模索した最大の理由は、把握された志岐被告らの資産である土地、建物、現預金の合計が、約3,000万円強程度にしかならないことだった。 裁判で約7億800万円という請求額に近い賠償を命じる判決が下っても、被告らにその支払い能力がなければ何の意味もない。損害を受けたと言うのなら、少しでも多くの金を取り戻すのが普通であり、和解は博多港開発にとって常識的な判断だった。
和解案で一旦決まった金額は、1億円を超えていたとされる。賠償額として1億円を選ぶか、その3分の1程度の金額を選ぶか。訴訟が「損害賠償」の請求である以上、少しでも多くの金額を積み上げるべきだろう。博多港開発側による和解の申し入れは間違っていなかったのだ。
しかし、和解書に署名する寸前になって、博多港開発側が和解を撤回する。博多港開発関係者によれば、福岡市の顧問弁護士から異論が出たうえ、吉田市長が「判決」にこだわったという。和解案は幻のものとなり、この瞬間、博多港開発は事実上の損失を蒙ることになった。
一体、何があったのだろう。
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