香椎幼稚園の特色のひとつに「徒歩通園」がある。登園時は保護者とともに、帰りは地区ごとに集団(教師と保護者が付き添う)で歩いている。自家用車で送る場合も、500mほど離れた駐車場から幼稚園まで歩く。通園バスが無いことで、遠方から通うことは困難になるが、田北園長によると「教育方針からあえて持たない」との考えであった。
香椎幼稚園の教育方針の大きな特長は、幼稚園を園児のみならず、保護者にとっての"勉強の場"として考えていることである。
「子供と一緒に来ることで、集団のなかにおかれた自分の子供を客観的に見る機会が生まれます。また、毎日、先生たちと顔を合わせることで、各家庭と幼稚園の連携がスムーズになります。さらに、保護者が希望される場合は自由に参観できます」(田北園長)。
香椎幼稚園では、保護者同士のコミュニケーションも深まるという。そして、自分の子供だけではなく、他人の子供であっても悪いことをすれば叱り、いいことをすればほめるなど、皆が一体となって幼児教育をする雰囲気が自然と作られるという。
また、毎日、園児が歩くことは体力作りにもなる。田北園長は「今は小さい子でもゲームに夢中になって、外で遊ばなくなっています。普段、出歩かないからこそ、外に出たときに事故に遭う可能性が高くなったのではないでしょうか。親は親で、事故を恐れて、子供を家から一歩も出さないような傾向があるように思えます」と話す。幼稚園への行き来を歩いて移動すると、通行する車を否応なく目にする。そのなかで、安全への意識を養うことができる。危険を回避するには、運動能力を高めておくことも必要だ。
一方、保育所では待機児童が問題になり、幼稚園でもわずかな残り枠をめぐって、保護者が徹夜で入学受付に並ぶといった状況が続いている。そのなかで香椎幼稚園は、現在、定員割れをしている。香椎幼稚園の運営サイドには、そのことから「今後続けても経営は困難になる」といる理事がいる。定員割れしている現状のみ、つまり数だけを捉えて「必要とされていない」とする声もある。
その解決策として通園バスの設置が考えられる。たしかに、バスを用意して通園できる範囲を広げれば、ある程度の定員不足は解消できるだろう。しかし、それでは、香椎幼稚園が50年以上続けてきた「親と幼稚園が一体となった幼児教育の方針」を崩すことになる。そもそも徒歩通園は、元来あるべき姿と言えるのではないだろうか。先生、親、子供が距離的に離された環境で、ベストな幼児教育が行なわれるとは思えない。
田北園長は、子供3人をすべて香椎幼稚園に通わせた。徒歩通園を親として経験してきたからこそ、そのメリットを真に理解し「守らなければならない」と考えている。
【山下 康太】
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