売場を面白くする
流通業界では死に筋を追放し、売場を売れ筋で固め、商品回転率を高めるのが常道。コンビニから総合スーパーまで、POS(販売時点情報管理)などの情報システムを駆使してひたすら効率アップに努めてきた。同社の大薗社長はメディアの取材に、あえて業界の常識の逆をいった理由を、「死に筋をカットし、売れ筋だけを並べた売場はおもしろくない。一見非効率でも消費者に良い店という印象を持ってもらった店が最終的には勝つ」ためと話している。
顧客の要望に沿って品揃えを増やし、支持を拡大していった過程は、㈱マキオの「A-Z」と共通する。両社とも人口希薄な南九州に本社があり、大都市圏にある企業よりも顧客の声に真摯に耳を傾けることの重要さを切実に感じていたのかもしれない。
半面で効率は悪くなる。なかには年に1点か2点しか売れない商品も出てくるが、切らすと苦情が出て、店の評判を落とす。ハンズマンの棚卸資産転率は年4.14回。家具の売上比率が高く、業界では商品回転率が低いナフコの4.4回転より悪い。最大手のDCMホールディングスは6.02回転ある。
粗利益率も、業界平均の30%を下回る27%強しかない。在庫のロスが多く、見切り処分しているためと考えられる。
11月北九州市に出店
出店は平均して2年に1店のペースを忠実に守ってきた。11月開業する北九州市小倉店が10号店になる。出店ペースが遅いのは、売場面積が1万㎡超の大型店で、投資コストがかさみ、経営体力から言って2年に1店が精一杯なためだ。前期末の有利子負債は月商の3.84カ月分あり、借入余力は少ない。人材育成を重視し、教育に時間をかけるせいもある。「DIYアドバイザー」という専門知識を持つ社内資格を設け、資格取得者が顧客の相談に乗る。大野城店では15人前後の資格取得者がいる。
新店を出す場合には、建物が完成しても2カ月間は営業せず、現場でパート・アルバイトに接客技術や商品知識を教え込む。売上高に占める人件費(福利厚生費を含む)の比率は12.14%あり、ナフコの10.3%より2ポイント近くも高い。1店舗当たりの人員が業界他社より多いためと考えられる。プロ需要家に対応するため、園芸、電動工具、床材などきめ細かく分けた売場にそれぞれ専門販売員を置いているためだ。
今6月期は新店がなかったものの、売上高は前期比3.3%増え214億1,000万円となる。売上高比率でわずか0.67%しかなかった営業利益は2.7倍強に拡大し、売上高比率も1.76%と1%を超える。営業利益率が低かったのは、人件費などの販管費負担が大きく、専門的な品揃えとサービスの提供に見合う売上を上げられなかったためだ。経常利益は、2005年6月期に記録した8億4,700万円を超え、44.6%増の8億5,200万円と過去最高になる。
HC市場は拡大期を過ぎ縮小期を迎えたといわれる。業界団体である日本DIY協会の調べによると、09年の加盟企業の売上高は全店ベースで前年比1.6%、既存店ベースで4.3%それぞれ減少した。業界は、大手チェーンによる生き残り競争の段階に突入したともいわれる。
こうしたなかでハンズマンが好業績を上げているのは、価格競争と一線を画した専門的で豊富な品揃えと、社員教育の成果によるものと言ってよい。大手が同質化競争をするなかで、独自の店づくりも顧客の支持を集めている。
今後、店舗数が増えるのに伴い、九州のガリバー・ナフコと競合する場面が増える。10月北九州市小倉南区朽網に開業する新店に対し、お膝元に乗り込まれたナフコは徹底的につぶしにかかると予想される。大野城店には逆に今秋、売場面積1万m2を超える大型店(春日店)をぶつける。
売上高で10倍の規模を持つナフコとの競争で、ハンズマンの顧客志向の真価が試される。
(了)
【工藤 勝広】
(株)ハンズマン
代 表:大薗 誠司
所在地:宮崎県都城市吉尾町2080
設 立:1964年12月
資本金:10億5,750万円
年 商:(09/6)207億3,900万円
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