<暴落>
かつて「キューサイ」に600億円の価値がついたことについては、前回で触れた。その相場でもってうまく勝負して、同社のオーナーであった長谷川一族は430億円を握った。当時は600億円の買い物でも安いと感じられていた。「食品研究所の検査能力の評価は高い。あの会社を単独で上場させても、かなり資金の回収ができる」と囁かれていたのである。当時、ライバルであった「やずや」の評価は、「売れば1,000億円の価値」と吹聴されていた。たしかに、「やずや」と「キューサイ」の格差は400億円あったと格付けできる。
ところが、東京から仰天話が飛び込んできた。「キューサイが売却される」という話が舞い込んできたのだ。「今どき上場しても、高い値がつくわけがない。誰が買うだろうか」という疑問を抱いた。それと同時に「そうだ!!購入した先もそろそろ転がす時期に差しかかっているのか」ということも頭によぎった。「とてもじゃないが、600億円の回収は追いつかないな」という直感である。
さっそく、探りを入れてみた。すると、周辺先に「キューサイを買いませんか。経営陣はそのままにして」という条件での打診をしているとの情報をキャッチした。「どのくらいの交渉の値がつくのか」も調べてみたが、案の定の答を得た。言い値が250億円相当ということだ。その道の素人である筆者でも、「250億円なんて無理だ。最大限200億円。下手すれば200億円を切らないと買い手はない」との結論である。とんでもない暴落だ。
600億円からの暴落の原因としては、(1)「景気の大幅悪化」(2)「株市場で再上場を果たしてもキャピタルゲインには限度がある」(3)「通販市場もバラ色ではなくなった」(4)「キューサイ自身の企業力の陰り」などが挙げられる。そして何よりも、「買ってくれ」と言い出せば価値暴落になるのは成り行きである。けっして妬みで言っているのでない。まー、妬みと思われても仕方がないが。ビジネス人生決算の大成の条件は、相場師の能力があることだ。納得した。
<矢頭会長の株はアップ>
キューサイのライバルであった「やずや」の企業価値も、最大限1,000億円と目されていた(経営陣は企業売買をするつもりはないから、具体的な値はつかない)。現状では、300億円の企業価値がつけばいいところか。1,000億から300億に3分の1減である。
だが、企業価値は下がったが、それとは逆に「やずや」の矢頭会長の人望は高まっている。それはなぜか。「天神プレイス」を堂々と43億円という価格で分限者(金持ち)買いをしたからである。これによって、売却したアームレポの田中社長は再生の芽が出てきた。分限者矢頭さんの厚意に応えられなければ、田中氏は博多の男ではない。男なら早く再生軌道にのせることだ。
また、矢頭さんは獲得した「天神プレイス」の空間で、彼女のビジネスライフワークを生涯貫くつもりでいるそうだ。ロンドンに逃避する長谷川氏とは大違い。長谷川氏の経営道場での教え子(現在、経営者)に、「ロンドンに遊びに来て」というハガキが来たというが、その彼は「誰が行くものか」となじる。
やはり、ビジネス人生の総決算においては、他人様の一人からでもお褒めの言葉が欲しいものだ。清々しい人生決算を貫く矢頭会長には、賞賛の声が増えている。
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