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特別取材

波乱含みの北九州銀行 新銀行設立の真相(上)
特別取材
2010年6月 3日 16:38

山口銀行「頭取交代劇」の先に

 今年3月26日、(株)山口フィナンシャルグループ(山口FG、取締役社長:福田浩一)は「新銀行の設立準備の着手について」と題するニュースリリースを発表した。金融秩序維持の名のもと、都銀をはじめとして信用金庫、信用組合の「箸の上げ下げ」まで指導監督し、再編・合併を進めている金融庁が、今回一転して「新銀行設立」を認めた背景に何があるのか。とくに九州の金融機関は、「新たな金融再編へと続く第一歩となるのでは」と戦々恐々の面持ちで推移を見守っている。

<北九州銀行構想の骨子>

北九州銀行について バブル崩壊後、公的資金導入による救済を受ける銀行が続発した。UFJ銀行(旧三和、東海銀行)は、金融特別検査の過程で不良債権処理をめぐる悪質な忌避行為により東京三菱銀行の傘下に、そしてまた三井住友銀行もUFJ銀行と同様の運命を辿りかけるなど、金融庁の金融機関への発言力が強まっている。金融庁の威光は旧大蔵省の護送船団の時代より増したとも言われている。
 そうしたなか、山口FGは3月、北九州市に設立を計画している「北九州銀行」について発表した(図1)。続いて4月23日、その概要を明らかにした。骨子は(1)今年10月に準備会社を設立し、1年後の2011年10月開業を目指す、(2)山口銀行から受け継ぐ九州にある23店舗に在籍する約350人に加え、管理部門などで100人を増員する、(3)山口銀行の23店舗が持つ融資残高約6,000億円と、預金約5,000億円を移管する。井筒屋などの大口融資先に対する大口融資規制(一企業への融資限度を自己資本額の一定割合以下とし、銀行資産の危険分散を図る)に対応するため、自己資本額を700億円程度とする。
 これより少し前の3月31日、山口FGは12年度を最終年度とする中期3カ年計画を発表している。それによれば、11年度開業を予定している「北九州銀行」、傘下の山口銀行、もみじ銀行の3行の業績を見込んだ目標数値は、本業の収益を示すコア業務粗利益を09年度の1,222億円を2割以上上回る1,500億円以上、経常利益は380億円を4割以上上回る550億円、最終利益は270億円を1割以上上回る300億円を目指すとしている。

<設立に至る歴史的背景>

 1878(明治11)年に創業した山口銀行は、戦後間もない1951年4月、小倉支店、広島支店を同時に開設し初めて県外へ進出した。翌年に東京支店を開設し、以降は県外への支店開設を進めていった。63年、門司市、小倉市、戸畑市、八幡市、若松市の5市が合併し100万人都市「北九州市」が誕生、政令指定都市となった。地元に有力な地銀がなく、八幡製鐵所など日本有数の製造業を抱える北九州経済圏における日銀北九州支店の役割は大きいものがあった。
 50年代当時、全国の地銀でトップの地位を占めていた福岡銀行は、石炭から石油への燃料革命の変化で県の基幹産業であった炭鉱産業の衰退と、その不良債権処理に追われていた。その間、北九州へのほかの金融機関、すなわち西日本相互銀行、福岡相互銀行(いずれも当時)、山口銀行の進出を許すことになった。
 石炭産業の痛手を回復した福岡銀行は、巻き返しを図るため北九州本部を立ち上げた。西日本相互銀行、福岡相互銀行も相次いで北九州本部を立ち上げ、地元三行(04年西日本銀行と福岡シティ銀行が合併し現在は2行)は北九州地区の営業強化に乗り出した。
 一方、山口銀行の北九州支店長は、地区管理母店長として北九州地区内支店および大分支店を統括。福岡支店長は福岡市内支店、久留米支店、長崎支店、熊本支店を統括していたが、2000年5月の北九州本部立ち上げで九州地区全域を統括することになった。その傘下の支店が、今回発表した北九州銀行設立で山口銀行から独立することになる。
 北九州本部を立ち上げ、本格的に北九州市への営業強化に乗り出した山口銀行。北九州支店開設50周年の来賓挨拶で末吉北九州市長(当時)は、「北九州に本店を構える銀行がない。『北山銀行』でも『山北銀行』でもいいので、ぜひ立ち上げてほしい」と述べたことが話題となった。

<日銀北九州支店廃止説>

 日銀は、接待事件や給与の水増し疑惑など内部管理面の問題で、「日銀の常識」が「世間の常識」からずれていたとの批判を受け、内部体制の見直しを図ることになる。その一環として2000年10月、(1)交通網の整備で福岡、下関両支店との時間距離が大幅に短縮され支店配置の重複感が強まった、(2)全国33支店のうち同一都道府県内に複数の支店があるのは北海道と福岡県だけ、(3)北九州支店廃止で年間約3億6,000万円のコスト削減となる―といったことを理由に、北海道の小樽支店とともに01年中に北九州支店を廃止する方針を打ち出した。
 これに対し地元は、日銀北九州支店の日銀券の受け払い規模や取引先金融機関が36行など、いずれも全国33支店の中位に位置し、北九州手形交換所の交換高も3兆6,000億円と中国地方以西では広島に次ぐ規模である点を指摘。「日銀の主張する旧来の都道府県単位ではなく、経済圏の規模や広がりに応じた支店配置とすべき」と主張し、「支店廃止による効果と北九州経済に与えるダメージを比べると、理屈に合わないリストラ案」だとして猛反発した。
 北九州市は、末吉市長をトップとする「存続対策本部」を、また経済界と一体となった「存続期成会」を矢継ぎ早に設置。さらに、地元選出の超党派の国会議員でつくる議員連盟が、日銀に対し廃止方針の撤回を求める決議書を提出するなど、政官民挙げての存続運動を展開した。
 予想以上に地元の反発が強かったこともあり、日銀は非公式ながら「当面は現状を維持する」意向を表明。小樽支店は閉鎖されたが、末吉市長の『北山銀行』発言はこのような背景のなかで生まれた。恵谷英雄北九州支店長(当時)時代に起きた廃止騒動から早くも10年が経過し、今のところ日銀北九州支店廃止の話はない。

(つづく)

【特別取材班】


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