「福岡女子大と香椎幼稚園理事会の問題だ」といって傍観を決め込む県議会議員がいた。同問題が含む教育というテーマから逃げるための方便に聞こえた。香椎という地域のなかで存続運動が起こっていることを考えれば、問題の本質はすぐに分かる。「伝統があり、地域の教育に貢献してきた幼稚園が消滅し、地域の教育に弊害を与えること」を憂い、存続を願っている多くの人たちがいる事実を真正面から受け止めるべきである。そして、その理由について深く知り、政治的な配慮を示すべきなのではないだろうか。
香椎幼稚園の教育は、約半世紀をかけて築き上げられてきたものである。基本的な教育方針は、創設に貢献された目加田サクヲ先生によるところが大きいものの、1972年(昭和47年)以降は、毎年反省を踏まえ細かな修正をしてきた。教育カリキュラムについては毎月1回、会議を実施しているという。
修正のなかで生まれた教育カリキュラムのひとつに「食育」がある。まだ「食育」というキーワードが普及していなかった72年から、40年来続けられているのだ。園児たちは年間を通して、春はエンドウ、夏はトマト、秋はサツマイモ、冬はダイコンなど、約20種類の野菜を栽培し、収穫した作物を使って調理も行なう。そのなかで、「野菜を育てること」「食べること」「ごはんとおかずの関係」を学ぶ。
また、苗作りから餅つきまで行なうもち米作りにより、「主食(イネ)を育てることで人間のエネルギー源を知り、食育活動にエネルギー環境教育の視点を盛り込むことが可能になった」としている。
さらに、数年前からは大学と連携し、教員を希望する学生が同カリキュラムに参加している。こうした取り組みが評価され、2007年には「食育コンクール INふくおか」で福岡県農業協同組合中央会会長奨励賞を受賞した。
この食育活動のカリキュラムは、一朝一夕には作り上げることができない。約20種類の野菜の栽培、調理実習、さらには大学との連携など、いきなり全てを始めるためには、某大な準備時間がかかる。ひとつずつやりながら、修正を加え、必要な分を足していった結果が、今のカリキュラムになっているのだ。
長い時間を費やして作り上げられた香椎幼稚園の「教育のノウハウ」が無くなろうとしている。無くすのは簡単だが、再び作り上げるために多大な時間と費用がかかることを忘れてはならない。
【山下 康太】
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