中洲レポートがご無沙汰になって申し訳ない。少々、節操のない飲み方をしてしまい、ギリシャ並の経済危機が訪れてしまった。中洲に行きたくても行けず。そんな日々が続いていた。もっとも国債(ツケ)を発行できるほど信用力もない。
しかしながら、なんとかねん出した少ないポケットマネーで美味しい酒を飲ませてくれたお店があった。那珂川の川沿いにある今年で10周年を迎えた「プチたまき」というスナックである。
この店は、豊富な中洲歴を持つ実に気風のいい久子ママが切り盛りする店で、「隠れ家的存在」として、落ち着いて飲みたいという客が集っている。
店を初めて訪れた時、久子ママが、ウィスキーのボトルをポンと出して「サービスで1本入れちゃるけん、また来てね」ときた。今のご時世になんとも気前のいいこと。すぐに気に入って、小生の回遊ポイントのリストに加わった。
そんな久子ママが、アルコールが少々入った後、中洲の今昔物語を語り始めた。
「伝統のあるクラブも減ってしまったね。それでもクラブに行きたいお客さんが残った店に集まって繁盛しているようですけど、全体的に寂しくなってはいますよ。今はホント、格差があります。景気のいい頃は『そこそこもうかっている店』がたくさんあって中洲全体が賑わっていたけど、今は『繁盛している店』か『ヒマでつぶれる店』の両極端。"そこそこ"というところが無いんですよね」。
昨今、変わったことと言えばツケの話。それこそ景気の良い頃は、ツケになってもしっかり払われていた。ところが、だんだん景気があやしくなるにつれ、「その日に飲みには行っていない」などと白を切る客が増えてきた。店のほうはたまったものではない。防衛手段として、一緒に飲みに来た客の名前を控えたり、もらった名刺に日付を書いて保管したりする。昔の高級クラブ嬢などは、ツケの回収にも責任を持たされていたというから、接客サービスと同時に客を見る目が問われてくる。
ある元高級クラブ嬢は「信用調査会社の情報をこまめにチェックしていました」という。ツケが未回収になれば、その分、自分の給料から引かれてしまうからだ。
ツケにしといて知らぬ存ぜぬは実に非常識。残念ながら、今でもそういうトラブルは少なくはないという。過去の栄華が忘れられず、豪勢な飲み方をしたいという気持ちは分かるが、支払いはきちんとする最低限のマナーまで忘れてはならない。
店で飲んでから数日後、久子ママから直筆の手紙が届いた。貧乏ライターの小生は、身の丈に合った飲み方しかできないけれど、それでも中洲には温かく迎えてくれる店があるのである。
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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