田北園長は「全てのカリキュラムは年間を通して密接につながっています」と説明する。食育活動で学んだことは他の行事にもつながる。
たとえば、園児が店を作り、物の売り買いを体験する「お店ごっこ」では、食べ物の大事さを理解したうえで行なわれる。主に作り物の野菜やくだものを売り買いするが、実物のお菓子などのやりとりもする。その準備段階として、香椎の商店街へ見学に行く。そこでは実際に買い物をし、本物の商売のやり取りを体験するのだ。「お店ごっこ」が終わった後では、お給料の支払いまで行なわれる。
一方、「郵便ごっこ」では、園児たちは、手紙を収集する係、ポストへ投函する係、配達する係などに分かれて、郵便業務のしくみを体験しながら覚える。もちろん、それだけではない。"自分の気持ちを伝えたい"という思いが、"文字を書きたい"という気持ちにつながり、学習意欲を自然と起こさせる。「お店ごっこ」ではお金のやり取りを通して、数字への興味を持たせる。そして、全体を通して、社会のしくみを学んでいくのだ。
これらの行事が地域の理解と協力のもとに行なわれていることも注目すべきだ。園児たちは行事を通して、その地域社会に慣れ親しむのである。
また、園児のなかには同学年だけではない「タテのつながり」が作られる。それは、年少から年長まで縦割りのグループにより教育・行事が行なわれるからだ。そのなかで、年下の子の面倒を見るといった風土が生まれ、それは卒園後も続くという。ランドセルを背負ったOBの小学生が、後輩と遊ぶ為に幼稚園に来ることも多い。小学校においても、学年は違うOB同士が困ったときに助け合うこともあるという。
一方、保護者のほうでも、先に子どもが小学校へ上がった他の保護者から、たとえば入学に際してアドバイスを受けるといった連携があるという。徒歩通園や自由参観を通じて、保護者間のつながりが生まれている。相談相手がおらず、育児・教育について頭を抱えるような孤立する親はいない。
子どもと保護者、それぞれに作られる「タテのつながり」は香椎幼稚園創立から半世紀以上の長きに渡り、連綿と続いてきた。その意味では、地域社会を構成しているといっても過言ではないだろう。「子はかすがい」ということわざがある。それは夫婦間に限ったことではなく、子どもの存在は、地域住民のつながりを作り、保ち続けるものではないだろうか。
【山下 康太】
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