＜個性的な社員たち＞

　見た目の印象が、より柄を悪くした'ジャイアン'のX社長の会社の従業員も社長同様、個性的で印象的でした。女子事務員は２人。薬剤師の資格を持ち、無表情で冷たい視線を投げかけながらいつもお茶を持ってくる杉本さん、化粧も服装もどう見ても夜のお仕事系だろの明美さん。営業スタッフはというと、クリッとした落ち着きのない眼でやたらにぺっぺっと唾？　を吐いていつもX社長から「青田君、青田君」と呼びつけられている青田部長。X社長と２人で街を歩いていたらぜったいに目線を合わせんようにしとこぉって思わせる古典的チンピラ系キャラのパンチさん。苦労を一身に背負った中年サラリーマンの哀愁を漂わせる関西弁の吉本さん。X社長の会社にはありえないさわやか系イケメンなんですが、話し始めるとチョ～なまってる草刈さん――の以上４名。今改めて振り返ってみても、'キャラの宝庫'の様な会社でありました。
　X社長は「山笠君！　うちとこで売りたいなら、１週間うちの営業と同行販売できますか？　きっついどぉ～!　君みたいなジョウバ会社(多分上場会社？)のぬるま湯にたっぷり浸かった営業がだよ、うちとこの同行販売についていけるかのぉ･･････」
　不敵に笑いながら、酒の呑みすぎなのかゴルフでの日焼けなのかよくわからない、どす黒い顔で目をギラつかせてそう話しかけてきた。
　「ハッ、ハイがんばります!!　ご覧のように使い減りしない身体なんで･･････（何かにつけいまだにこのセリフ使ってる進歩のない小生ですが･･････）」今から考えると答えになってない博多っ子純情な営業でした(汗)。
　そんなこんなでX社長との商談も無事終わり、翌月、さっそく月曜～土曜まで1週間の同行販売を実施することになりました。X社長の会社では、同行販売は毎月1社1週間と決めており、年間12社限定。そのため同行販売依頼が殺到しているそうで、
　「普通はな、山笠君とこみたいな売上げの上がらん、売れそうもない商品で同行販売は組まんでぇ～」って後が怖そうな･･･喜んで良いのか悲しんで良いのか分らない複雑な誉め言葉(もしかして誉め殺し...)を商談後にX社長からかけられ、プチビビったりしたのであります。

＜川上課長のお小言＞

　やれやれの思いで、さっそくご紹介頂いた東京の大手健康食品問屋の柳川部長に報告した。柳川部長は喜んでくれるでもなく、事務的に「あっそう。じゃよろしく」と、ものの１分で商談室を立ち去って行ったのでした。柳川部長を初対面以来『絶対宴会芸でフランケンシュタインの物まねやればうけるのに･･･』と比較的微笑ましく思っていた小生は、『このぉ～、フランケン柳川･･････』とムカッときつつも、トボトボと帰途についたのです。
　さて、「ただ今戻りましたぁ～」と元気に会社に戻ると一難去ってまた一難。そうだぁ、うちの会社にも'ジャイアン'が居たことすっかり忘れてたぁ･･･と。小生の直属の上司であり、大の長嶋茂雄ファンで、自らをサラリーマン界の'長嶋茂雄'であると信じて疑わないジャイアン川上課長に、X社長との商談の報告をし終わると、川上課長は小生をひと睨みし、「山笠君、君誰の許可を得て１週間も出張するなんて決めてきたの？　だいたいまだ自分の給料でさえまかなえない程度の営業成績でだよ･･････それに君のチームの鷹負主任以下、日頃から君たちは全て仕事がどんぶり勘定なんだよ･･････金さえかければ良いってもんじゃないんだよ。会社は慈善事業じゃないんだよぉ」と小生はガァーンと金槌で頭をいきなり引っぱたかれた様なショックを受けました。当然のようにしどろもどろになっていると、川上課長はさすがに小生が駆け出し博多っ子純情セールスって事もあり、言い過ぎたと感じたのか、改めて諭す様に「山笠君、今のままでは認められないな。企業にはね、損益分岐点て言うのがあるんだよ」と次のように語りかけてくれたのでした。

＜プロフィール＞
山笠太郎（ヤマガサ　タロウ）
1960年生まれ。三無主義全盛の中、怠惰な学生生活を５年過ごした後、大手食品メーカーにもぐり込む。社内では、山笠ワールドと言われる独特の営業感で今日に至る。博多山笠は日本一の祭りであると信じて疑わない。

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