2010年4月21日、2年の歳月をかけて業界の心血を注いで練り上げた「食用塩の表示に関する公正競争規約」が完全実施に移された。ところがそれから1カ月も経たないうちに、業界に2つの問題が生じた。食用塩公正取引協議会副会長・尾方昇氏の「塩の味は変わらない」発言と、㈶塩事業センターの埋蔵金問題だ。在庫の切り替えなどで一部に混乱が生じたものの、一丸となって規約の遵守に取り組んでいた業界に亀裂が走った。これには過去の因縁があって、長年塩業界を支配してきた旧日本専売公社と自然塩復活運動に生存を賭けた海水塩メーカーの確執がある。食用塩業界の現状を徹底検証する。
<公正競争規約完全実施へ>
「食用塩の表示に関する公正競争規約」が2年間の猶予期間を終え、4月21日から完全実施に移された。同規約によれば、「健康・美容に関する効果」や「ミネラル」という言葉の使用が禁止されている。また、太古・古代・最古などの語も、その根拠が明確でないかぎり使用できなくなった(表1参照)。そのほか、「製造方法を明記すること」「○○推薦、○○賞受賞には明確な根拠が必要」など細かい規定が盛り込まれている。
食用塩公正取引協議会(東京都港区、会長:丸本執正)の指導のもと、塩メーカー各社は2年の歳月をかけて表示ルールの規格化を進めてきた。会員は5月14日現在で162社・団体とスタート時の倍以上の数にのぼっており、市場に出回る家庭向けの調理用塩(以下、家庭用塩)のほぼ100%をカバーしているとされる。同協議会加入社で正しい表示を行なっている商品には、公正マークが付与されている。ただし、固定会費年間1万円と従量会費(前年度の規約対象商品の年間販売量実績㎏×0.4円)を支払う必要がある。
食用塩業界はまさに今、適正な自主ルールのもとで消費者目線に立ったガラス張りの情報公開に向けて大きな一歩を踏み出したところだった。ここに至るまでにはさまざまな紆余曲折があった。それを知るには、旧日本専売公社が塩の販売を一手に手掛けていた1997年以前にまでさかのぼらなければならない。そこには日本古来の自然塩を存続させようとする自然塩存続運動と専売公社との、40年にもわたる確執の歴史が横たわっている。そして今もなお、その確執は水面下において連綿と続いている。
<自然塩ブーム到来>
71年、「塩業近代化臨時措置法」の成立で長年日本人が親しんだ塩田塩が全面的に廃止されることになった。50年代から試験的に導入されていたイオン交換膜法を用いて製造した塩化ナトリウム99%の『食塩』や『精製塩』が安定的に販売できるようになったためである。それに対し、松山市在住の有志が自然塩存続運動を起こした。運動は各地に飛び火し、自然塩の復活運動が全国にひろがることになる。「自由販売塩」や「試験生産塩」としての販売が一部で例外的に許可されたことで、単調な味の専売塩よりも、カルシウムやマグネシウム・カリウムなどのミネラル分を含んだ昔ながらのホンモノの塩を求める消費者が徐々に増えていった。
85年、専売公社が民営化されて日本たばこ産業に移行、97年の専売制廃止で国産塩の生産・販売が自由化され、規制緩和にも弾みがついた。メーカー各社は市場をほぼ独占していた専売塩に対して、「自然塩」「天然塩」「昔風(古代風)」を謳って自社製品の大キャンペーンを繰り広げ、シェアの確保に奔走した。
このとき塩事業法の施行に基づき、日本たばこ産業の事業は㈶塩事業センターに移管されることになる。同センターこそ、本年5月20日に行なわれた行政刷新会議による事業仕分け(第2弾)で見直しを命じられた法人である。
02年に輸入規制が解禁されたことで、食用塩の完全自由化が達成された。これを機に、輸入業者・塩製造業者が急増、食用塩市場はにわかに活気を帯びることになる。健康志向や自然食志向を訴求した塩がテレビや雑誌、新聞などのマスコミに紹介され、低ナトリウムでミネラルバランスの良い「自然塩」が注目を浴びる。一般消費者の関心も高まり、一挙に自然塩ブームが巻き起こった。さまざまな規模の塩事業者が乱立し、多種多彩な食用塩が市場に出回った。
【田代 宏】
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