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特別取材

変わる食用塩表示 出鼻を挫かれた公正競争規約(3)
特別取材
2010年6月19日 08:00

<規約実施で標準化招く>

 現在、「塩」の製造メーカーは574社、卸が360社、輸入塩専門業者が539社とされている。生活用塩の需要財務省の調べによると、流通している生活用塩は202万トン(表2参照)、海外の塩も合わせれば1,000種類近い塩が何らかのかたちで流通している。
 価格帯は1㎏100円台から数千円台にのぼる品までさまざまだが、平均すれば末端価格300円/㎏程度だろう。では、その価格決定要因は何か。
 「それは商品でも生産コストでもなく、マーケット構成要因で決まる」と尾方氏は数年前に業界紙のインタビューで答えている。つまり、末端ユーザーへの「イメージ戦略次第」ということである。たとえば、メーカーに対して一般消費者と料理店があるとする。メーカー側は、TV・雑誌・店頭POPなどによりキャンペーンを展開し、ブランドのイメージ形成に努める。一方の料理店はメーカーのキャンペーンに合わせて消費者がイメージするブランド品の供給にうまく応じる。それによって消費者は満足を得、メーカーは利益を得、料理店はリピーターを獲得するというわけだ。
 では、イメージ形成を成功に導くためにはどうすればよいか。市場にはさまざまな塩が百花繚乱と入り乱れている。繰り返しになるが、専売制廃止後のメーカーは競うように「自然塩」「天然塩」「昔風(古代風)」を掲げてシェアを広げていった。新規参入企業は先人のひそみに倣って「ミネラルたっぷり」や「にがり含有」などの付加価値を前面に押し出して商品を特長付けた。ところが、食用塩公正競争規約の完全実施にともない、上記のような手法での差別化は図れなくなる。
 尾方氏がかつて発言したように、「寿司やおむすび、キュウリにでも付けて食さない限り味の違いは判別できない」塩であるとすれば、4月21日以降は「自然塩」も「海塩」も、「岩塩」や「天日塩」、「海洋深層水塩」も標準化されて他製品と同一に見なされかねない。規約は自主ルールとはいうものの、違約金や除名処分のほか、悪質な場合は行政への通報も辞さないといわれている。これは、何とか自主基準を守り抜こうとする協議会の決意の表れだ。
 そうなると今後、消費者の選択要因は単に価格の高低だけにかかってくるのだろうか。にもかかわらず、自然塩復活運動に身を捧げた製塩メーカーらは、独自の技術で「味」や「品質」、「製法」の違いに生き残りを賭けようと懸命に模索している。ちょうどそのようなときに起きた尾方氏のマスコミにおける発言だっただけに、食用塩公正取引協議会メンバーの一部による「いきなり頬を張られたような衝撃」(関係者)を受けたとする発言も頷ける。同氏の言動は食用塩製造メーカーのみならず理事の神経まで逆撫でした。波紋は広がった。

<尾方氏が謝罪・辞意表明>

 5月12日付の産経新聞掲載の記事で尾方昇氏は、食用塩公正取引協議会副会長という立場にありながら同紙の取材に対し、「塩の値段は製造や輸入の規模で決まる。味の違いは普通の人が分かるものではない。料理の達人のような人が味見をして、『少し違うんじゃないか』という程度」と指摘したうえで、「品質や味の差が小さく価格差が大きいことから誇大な表示になりがち。表示についての改善努力を重ねたい」--との答弁を行なった。
 本誌の取材に対して尾方氏は、「記事の表現は私が発言したそのままの言い回しではない」としながらも、その主旨に対しては「個人的な見解」として肯定した。
 これに対し関東のあるメーカーは、「明らかな誤り」とバッサリ。「味がほとんど変わらないというのもおかしいし、生産規模が小さい事業者の塩だから値段が高いというのも間違っている」と声を荒げた。「第一、塩にこだわっている消費者に失礼」という言葉を裏付けるように、価格や生産規模に関する消費者のクレームめいた問い合わせが、メーカー各社に入ったと言われている。業界では尾方氏に対する批判の矢が飛び交った。
 その後、5月21日に同協議会の総会が開かれた。総会を前にしてある海水塩メーカーは「進退問題に発展するだろう」と語気を強め、尾方副会長の責任を追及する構えを見せていた。ところが尾方氏は理事会で自らの発言を不用意だったと謝罪し、辞意を示したものの、結局は慰留されて事なきを得たかに見える。
 関係者の弁によれば、問題と指摘される尾方氏の発言を知らない理事が多く、会場では呆気にとられた顔をしていた参加者も多かったという。それでも一部自然海塩復活派の関係者は尾方氏の進退問題に言及し、「辞めるしかないだろう」と憤慨している。
 同協議会のなかには、「運営委員会に諮った後にホームページ上で謝罪のコメントを掲載する」ことで収束を図ろうとする意見があるようだ。しかし事はそれで収まるのだろうか。
 当事者の尾方副会長は本誌の取材に対し、「嘘の表示のない業界にしていこう、消費者目線で頑張っていこうということでこれまでやってきた。これからも消費者、メーカー、販売者みんなが団結して進んで欲しい」「あれは敵だとか、あれからむしり取ってやろうとかいうメーカーであってはならない」と述べた。しかし、その言葉に力は感じられなかった。

(つづく)

【田代 宏】


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