成功体験は捨てよ 若者と新技術が切り拓く時代へ
「日本の未来の羅針盤」スペシャルインタビュー第1弾は、グーグル日本法人を創業時から率いてきた現名誉会長の村上憲郎氏。インターネットが変えてきた世界において、見事にビジネスモデルを時流に乗せて一大企業となったグーグル。その成長の一翼を担ってきた男の目には、10年後の日本はどのように映っているのかーさまざまな観点から話を聞き、また提言していただいた。
―最近「フリー」なる用語が流行し、御社はその代表格のように紹介されてきました。従来、お金を出していたものが無料化することで、情報や知識に対する価値が変化してきたと思います。
村上 皆さんそういうことをよく言われますが、本当にそうなのかなと思います。つまり、インターネット上に出ている知識とか情報というものは公開されたものですよね。それに対するより簡便なアクセス手段をグーグルが提供していることはたしかでしょう。
だからといって、もともと対価を払うべきだったものを、無理やり対価を払わなくてもよくしたといった風説というか論調で「フリー」なるものが語られるのは、本当にそうなのかなと考えてみる必要があるかもしれません。実際、有料であるものは、インターネット上であろうと引き続き有料のままです。
最近出版された『フリー』などの本で述べられているのは、ビジネスモデルとしてのそれです。日本で「フリー」と表現するものは、英語で言えば「Come on」つまり撒き餌のようもので、新しい手法ではなく昔からあったものです。
本来は対価を払うべきものを無理やり無料にしているといった最近の風潮は、たしかに面白可笑しい話だし、皆が「そうだそうだ」という風になりそうですけど、それはかなり注意して考えた方がいいのではないかと思います。
なぜ、あえてそういうことを言うかと申しますと、よくグーグルがダシに使われて「無料化の元凶はあそこだ」などと言われるからです。それはまったくの誤解です。要するに我々は、皆さんがグーグルで検索したとき「ネット上のどこにどういう情報がありますよ」と指し示しているだけで、そのサイトで課金するのか、タダで見せているのかということはグーグルのあずかり知らぬことです。少なくとも、グーグルがそのコンテンツを持っているわけでありませんから、課金するかどうかはリンク先のサイトのコンテンツをお持ちの方々が決めていらっしゃることです。
なるほどグーグルのサービスは無料ですけれど、「フリー」の話はコンテンツや情報がフリーだという話ですよね。でも、話はそれほど単純ではないのではないでしょうか。
【聞き手:大根田 康介】
<プロフィール>
村上憲郎氏
1947年大分県佐伯市生まれ。70年京都大学工学部卒業。卒業後日立電子に入社。78年日本DECに転職、86年から5年間米国本社勤務、帰国後92年に同社取締役に就任。94年に米インフォミックス副社長兼日本法人社長。98年にノーザンテレコムジャパン(現ノーテルネットワーク)社長。2001年にドーセントジャパンを設立し、社長に就任。03年より米グーグル副社長兼日本法人社長に就任。09年より現職。著書に『村上式シンプル英語勉強法―使える英語を、本気で身につける』、『村上式シンプル仕事術―厳しい時代を生き抜く14の原理原則』がある。
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