現在日本でも、非常に多くの健康食品が販売され、健康食品の市場は1兆7、8千億円という市場規模を構成している。健康食品に使用される成分も国際的な市場でサプリメントに使用されているものと大きな差異はないと考えられる。しかしながら、法制度の上では日本は国際的にみて極めて特異な立場にあり、保健機能食品以外の、海外で言うサプリメントと非常に近い存在である健康食品(「いわゆる健康食品」)を通常の一般食品と位置付け、機能性に係る一切の表示を認めないという立場を採っている。しかしながら、特定の食品成分に特定の機能性が認められるという事実は科学的に裏付られたものであり、国や地域が異なったからと言って、その事実に違いがあり得るはずがないのである。換言すれば、日本で販売されている健康食品(サプリメント)と言えども、表示の有無の如何にかかわらず、含まれる成分に特異的な機能性が発現されるという事実は、海外の国、地域と変わらない。健康食品を販売する目的で製品を開発する企業にしてみれば、当然製品開発の段階で機能性を前提として成分の選択を行い、その成分の機能発現を前提とした処方の検討がなされているはずである。とすれば、市場で販売されるこれらの製品を購入して摂取すれば、何らかの効果が発現されることになる。健康食品は原則的に健常人による利用を前提に開発されているので、上述の効果発現が有害な反応に結びつく可能性は殆どないといえるが、たとえ有益な効果であるとしても、その効果が生理学的なものである限り、その事実を知らずに消費者が摂取するという制度的環境には疑問を感じない訳にはいかない。このような事態の社会的な背景は、「いわゆる健康食品」の購入と摂取は消費者の自己選択に託されており、消費者の自己責任に委ねられているという事実を示している。しかしながら、特定な製品の自己選択に必要であり、自己責任を果たすために必要な情報の提供は、機能性表示が認められないという法的な制度の下に一切阻まれることになる。従って、実際には自己責任の果たしようのない状況下で、消費者の自己選択を強いられているのが健康食品の現実の姿である。
<法整備こそサプリの存在証明>
1兆7、8千億円という市場規模の中で、「いわゆる健康食品」の占める割合を1兆円程度と推測し、しかも国民の半数以上が健康食品を摂取しているという統計データを信用するならば、多くの国民が自身の健康維持に真に有用であるか否かの判断を断たれたままで健康食品を現実に摂取していることになる。
このような事態に国民が不安を抱くのは当然と言えるが、冒頭に記したように、サプリメントの存在の本質的な意義は、人類の生存と健康維持に対する関わりの中で議論すべきであり、ヒトに対する普遍的な課題として捉えるべきである。国家間の距離がますます短縮して情報の共有化が進む現代において、既定の制度のしがらみに何時までも拘泥していて方向性を見失うことなく、有益なものを有益なものとして広い視野と科学性に基づく法制度化に、日本においても健康食品に対して取り組むべきではないか。これこそに、いま、法制度化が問われていることの真意があると考える。
<プロフィール>
大濱 宏文(おおはま ひろふみ)
東京大学応用微生物研究所および名古屋大学医学部生化学教室にて「ビタミン」「酵素」「活性酸素」等の研究に従事。医学博士(名古屋大学医学部)。現在、バイオヘルスリサーチリミテッドの代表取締役、一般社団法人 日本健康食品規格協会の理事長を兼務。ほかに、名古屋大学医学部非常勤講師を3年間、厚生労働省「健康食品の安全性確保に関する検討会」など多数の検討会委員を務める。日本学術会議連携会員、IADSA科学者会議委員、日本臨床栄養協会サプリメントアドバイザー認定機構理事、健康食品管理士認定協会理事、日本臨床栄養学会評議員、日本健康科学学会理事、(財)日本健康・栄養食品協会理事ほか。
主な著書に、「Nutraceutical and Functional Food Regulations in the United States and Around the World」 (Ed. By D.Bagchi : Academic Press)(分担執筆) 、「ビタミン・ミネラルの安全性・第2版」(By J.N.Hathcock: 監修 橋詰直孝、第一出版)(翻訳)、「エビデンスに基づくハーブ&サプリメント事典」(By A. Fugh-Berman: 監修 橋詰直孝、南江堂)(編集・翻訳)などがある。
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