一方で庶民は、「民間企業家が巨額な資産を所持するのが必ず何か悪いことをしたから」と考えています。あるいは、「金持ち=犯罪者」という先入観を持っています。また、収入格差の拡大が治まらず、社会が不安定な状況では、政府が一部の民間企業家の過去を調査し、追及、弾圧することで民衆の感情を慰めることもあったようです。それが事実なら、民間企業家は権力の犠牲になる存在とも言えます。
したがって、民間企業家が自分自身を保護するため、海外に行くのはやむ得ない選択と言えます。一種の生き残る道とも言えるでしょう。そうしなければ、いつ捕まるかという心配をずっと抱き続けることになります。もちろん、移民先の国にある優れた子供教育環境や健全な社会保障、安心な食品衛生なども海外移住の魅力として上げられます。
しかしながら、国全体の視点から考えれば、富裕層の海外移民は中国にとって莫大な損失です。長年、国を挙げて、低賃金を代価に、大量な資源を消耗し、環境を汚染して蓄積してきた財産がいつの間にか他国に流出してしまうのですから。まるで農家が努力を重ねて作物を栽培したあげく、収穫を他人にごっそりと持っていかれるようなものです。
国の財産を守るためには、この傾向を何とかして止めなければいけないと有識者が建言しています。「富裕層にいくら問題があっても、財産が中国にあれば、まだ国の発展に貢献できる。彼らを見る目を変えたほうがいい」というものです。
また、行政権力をいかに制約するかということも、当面急いで考えるべき課題だと専門家は指摘します。行政が多大な権力や資源を持つからこそ、企業家は市場より官僚を中心に行動を取ることになり、いわゆる「政治とカネ」の問題が後を絶たないのです。
それから、法律の更なる充実や様々な産業に参入できる環境作りなどで、自由かつ安全な社会を作り、富裕層が国内においても安心して事業に専念し、生活を楽しむことができれば、中国が自らの魅力を増やすことに繋がるでしょう。
これからのグローバル化競争においては、中国がいかに国づくりに努力し、自国をはじめ、世界の人々を引きつけ、仕事や暮らしにおいて憧れの国になることこそ、勝負の鍵を握ると信じています。
【劉 剛(りゅう ごう)氏 略歴】
1973年12月生まれ。中国上海出身。上海の大学を経て、96年に地元の人材派遣会社に入社。10年3月より福岡に常駐。趣味は読書。
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