成功体験は捨てよ 若者と新技術が切り拓く時代へ
―日本が大きく変化するなか、やはり個々人の変化も求められていると思います。御社の社員教育などと絡めて、今後各企業はどうあるべきかお話しください。
村上 実は、グーグルのやり方に普遍性、妥当性はありません。特別な会社なのです。こう言うと不遜に聞こえるかもしれませんが、当社の社員は頭のいい人の集団です。逆に言えば、当社は社員教育をほとんどしていません。自学自習という感じで、あるいは互いに教え合う。専門知識の面ではその道の権威などを呼んでお話を聞いたりはしますが、これはネットの世界に閉じこもるだけではなくて視野をもっと広げようという考えがあります。
では、たとえば他の企業がそれでいけるかと言えば、そうはいかないでしょうね。そういう意味においては、あまり当社のことは参考にならないと思います。
ただ、あえて申し上げるとすれば、今の時代に長期プランなんていう発想はもうありません。短期のこと、2~3年後の中期のことだけを考えて、その後は天下国家の方向性を見極めて諦めるところは諦めるのが肝要です。
たとえば株で損したとします。素人はたいてい一番高値で買い、一番安値で売ります。世の中そういうものですが、一番良くないのは、売った後に値が上がっていくのを、いつまでも未練たらしく気にしていることです。
また、たとえば何かに投資した、あるいは何か新しい事業を仕掛っているとき、そこにはある程度の費用が注ぎ込まれています。そうすると、もう後には引けなくなってしまいます。
今まで注ぎ込んだ100万円は惜しいけれど、これをサンクコストと言います。実はサンクコストより、これから注ぎ込む1万円の方が大事なのです。ここでさらに1万円注ぎ込んでむやみに失うのか、そうではなく別のものに1万円投資してそれを1,000万円にするのか。無理やり損を取り返そうと思ったらダメです。
うまく表現できませんが、どうも今の人は良かった昔をただ思い出しているきらいがあります。なぜそうなるのか。モンキートラップという架空の話ですが、南の島で猿を捕まえるとき、ヤシの実をくりぬき、穴をあけ、紐でゆわえて、そこにやってきた猿が手を突っ込み美味しい果実を握るわけです。しかし、握ると手が抜けない。果実を離せば抜けるのに、です。
これは、いったん覚えてしまった美味しい味はなかなか忘れられないというたとえ話です。
【聞き手:大根田 康介】
<プロフィール>
村上憲郎氏
1947年大分県佐伯市生まれ。70年京都大学工学部卒業。卒業後日立電子に入社。78年日本DECに転職、86年から5年間米国本社勤務、帰国後92年に同社取締役に就任。94年に米インフォミックス副社長兼日本法人社長。98年にノーザンテレコムジャパン(現ノーテルネットワーク)社長。2001年にドーセントジャパンを設立し、社長に就任。03年より米グーグル副社長兼日本法人社長に就任。09年より現職。著書に『村上式シンプル英語勉強法―使える英語を、本気で身につける』、『村上式シンプル仕事術―厳しい時代を生き抜く14の原理原則』がある。
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