経営法律事務所 北斗
田畠 光一 弁護士 濵地 雅一 弁護士
今春、新たな船出を迎えた弁護士事務所・経営法律事務所北斗。企業での実務経験を持ち、弁護士でありながら九大ビジネススクール(QBS)でスキルを磨いた2人の若手が目指すのは、経営企画段階から事業に携わる中小企業向けコンサルティングファームだ。企業の経営環境が厳しさを増すなか、これからの企業法務に求められるのは何か。
3. 2,000人時代の弁護士に求められるものとは
―事務所立ち上げの反響は上々のようですね。潜在的な需要が大きかったということでしょうか。
田畠:アメリカにいくとローファームが様々なコンサルティングをしていますし、日本の大企業では法務部が経営企画の段階まで関わって未然にトラブルを防ぐ役割をしています。つまり、法的なコンサルティングの需要は元々あるのです。日本では「○○業界にいました」というだけでコンサルタントを名乗る人が多くいますが、本来のあるべき姿とはかけ離れていますね。
濵地:柔軟さを持って顧客の声を聞くことは全ての仕事の基本です。大学院の同僚が一様に「需要はある」と口をそろえるのを目の当たりにすると、ビジネススクールに通う人間からみれば当然やるべき業態だという発想に落ち着くと思います。マーケットは存在していて、そのセグメントにどういうサービスを提供できるのか、今は既にその段階にあります。田畠先生はいち早くその点に気付いていた訳です。私も反響を聞いてみて確信しています。
―需要がありながら手をつける弁護士が少なかったのはなぜでしょう。
濵地:ひとつは規模の問題があるでしょう。小規模で個人経営の弁護士事務所が多い中では、多岐にわたるクライアントの企業実務に深く入り込むことは事実上困難です。もうひとつは弁護士の数にあると思います。これまでのように弁護士が少なければ食べていくのに困らないのですから、敢えて手を広げる必要が無かったのではないでしょうか。
-現在、司法試験の合格者は以前の4倍の約2,000人。福岡県下の弁護士も500人から900人近くまで増えています。弁護士も競争の時代ですね。
田畠:もちろん競争が激しくなればパイの奪い合いが起きますが、我々のコンサルティング分野と従来の法律事務の分野では、そもそもパイが違います。500人のパイを割って取りに行くのではないのです。だからこそ、従来の事務所を使っている方々も我々を使ってもらえるのだと思います。これまでの日本では、弁護士に不満があっても言わない風土がありました。ですが、司法制度改革や裁判員制度の影響で、市民が弁護士に対して物を言ってもいいのだという流れになってきていますし、求められるものも変わってきています。遅かれ早かれ、皆そのことに気付かされる時期が来るでしょう。潰し合いをするのではなく、「我々は新たなステージに先に行っていますので、出来れば皆さんも来ませんか」というスタンスでの競争です。
4.ルールを知らない者には退場が待っている
―企業防衛を含めて、経営者の無知が倒産や儲けきれない中小企業をたくさん生んでいます。いい時代は積極果敢な姿勢でも良かったのですが、デフレ時代は経営手法も変わってきます。
濵地:景気の良い時代は、積極的で勇気がある人が成功してきましたし、父を見ていてもそのように思います。逆に、デフレ時代の経営は、いかに取りこぼしを防ぐかが重要です。経済が縮小してきたところに世界規模での市場ルールの厳格化が重なり、利益を出しにくくなったのも確かです。ルールを破れば官公庁だけからではなく世間からも厳しいペナルティが課され、一夜にして倒産に追い込まれるケースも珍しくありません。ですが、最初からルールが分かっていれば必要以上に恐れることはありません。落とし穴が分かっているのですから、無駄な動きも相当減らせるはずです。我々がお手伝いしたいのは、まさにその分野なのです。
田畠:「法律で雁字搦めにされて儲からない」と嘆くより、発想を逆転させて「雁字搦めの中でいかに儲けるか」を考えることの方が生産的です。「やりたいことがある、法はこうなっているのだからこうやれば儲かるよね」という具合です。先ほど「経営者は無知」と言う話が出ましたが、そもそも中小企業に「全ての経営判断を的確に出来る人材がいなければならない」という発想自体が間違っているのではないでしょうか。経営者である社長はその道ではプロですが、個人で精通できる分野には限界があります。かといって参謀を育てるには、時間的にもコスト的にも困難でしょう。我々は法律とマーケティングのプロとして、経営判断の一部を担う存在でありたいと思います。
5.墓守から助産士へ
-多岐にわたる知識と高度な判断が求められますね。
濵地:QBSなどをバックグラウンドにしていますから、様々な案件に対処できるだけの人材ネットワークは用意できています。このネットワークを若い経営者にも積極的に活用して欲しいと思います。長引く不況で多くのものが壊れた反面、しがらみの無い若い企業が伸びる下地は揃いつつあります。弁護士と中小企業の関係でいえば、これまでは企業の清算業務が主だった役割でした。今後は新たな企業、新たな事業を興すところから一緒にやっていきたいですね。
田畠:立ち上げた新規事業が法の規制で頓挫した話は山ほどあります。そこにかけた時間とコストを考えれば、事前に相談することのメリットの大きさを感じてもらえると思います。法律相談はもちろんのこと、3年後、5年後を見据えた事業計画の作り方からコーチングの仕方まで、最小のコストで最大の効果をあげるやり方を経営者の方々と一緒に考え、提案していきたいと思います。
田畠 光一 弁護士 1975年5月生まれ、九州工業大学情報工学部機械システム工学科卒業、大学卒業後、日立製作所勤務を経て2005年弁護士登録、福岡市内大手弁護士事務所に勤務する傍らQBSに学び、2010年経営法律事務所北斗の立ち上げに参画 |
|
濵地 雅一 弁護士 1970年5月生まれ、早稲田大学法学部卒業、大学卒業後、UBS証券会社、不動産デベロッパーを経て家業の建設・不動産業へ、2008年弁護士登録、QBSに学ぶなか、2010年経営法律事務所北斗の立ち上げに参画 |
【文・構成:田口】
*記事へのご意見はこちら