長期不況下で増えたのがアパートやマンション、オフィスの賃貸契約を巡るトラブル。大阪や福岡など西日本で目立つ転居時の「敷引き」と呼ばれるものから、賃料の一方的値上げや家主都合での退去要求など、全国でトラブルが多発している。そんな貸し主と借り主のモメ事を解決する手段として注目されているのがADR(裁判外紛争解決)だ。
<増える相談・解決窓口>
今年3月に発足した弁護士、司法書士でつくる「福岡敷金問題研究会」のトラブル110番、4月の兵庫県司法書士会による「敷金返還トラブル110番」など、住居の賃貸契約に関わる相談窓口の新設が各地で相次いでいる。いわゆる家主と賃借人のトラブルがバブル崩壊後から増え、さらに長引く不況下でせちがらくなったせいか、増えこそすれ絶えないからだ。
国民生活センターの家賃問題の相談件数を見ても、2005年以降は年間1万4,000件前後で推移。このほか、各自治体や弁護士団体の相談窓口へのそれらを合わせれば、相談件数は年間3万件といわれる。これに、トラブルを嫌ってあえて泣き寝入りするケースも加えれば、潜在的なそれはさらに多いはずだ。それらほとんどが、弱い立場の借り主側からの訴えだ。
その解決手段として裁判に訴える例もなくはないが、アパートやマンションの賃貸契約上のトラブルでは、弁護代などの費用対効果を考えればほとんど割に合わない。そこでこのところ増えつつあるのが、ADR(Alternative Dispute Resolution)と呼ばれる第三者が介在しての一種の仲裁だ。ADRは金銭貸借など各種法的トラブル全般にわたり、裁判によらず法廷外で解決するもので、司法制度改革の一環として3年前から始まったもの。それを賃貸トラブルの解決にも応用しようというのが、先のような動きだ。
国交省データによれば全国の賃貸住宅は1,300万戸。通常2年契約とすれば、毎年650万件の新規契約、契約更新、契約解除があることになり、そこではさまざまなトラブルが発生する。さらに契約途中での家賃値上げ要求、あるいは「身内が住むことになったから」「建て替えするので」などの家主側都合での退去要求。「家賃の支払いが遅れた」という賃借人側のミスを衝かれ、退去や法外な延滞金を要求されるケースもある。もっとも多いのが、転居時の「敷引き」と呼ばれるもの。本来なら返還されるべき敷金や保証金が棒引きされるだけでなく、それを上回る「原状回復費用」を請求されるケースだ。
そんな賃貸トラブルに対応すべく、従来は自治体や国民生活センター、弁護士会などが相談窓口を設けてアドバイスしてきたが、アドバイスにとどまらずADRによる解決窓口も設置するようになってきた。先の福岡や兵庫の110番もそれだが、現在、行政が行なっているのは都道府県および市区町村の消費生活センター、民間では日本弁護士連合会、日本司法書士会、日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会などがある。
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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