中洲の飲食店十数軒から、指定暴力団・山口組系組幹部の男が10年に渡り約7千万円の「みかじめ料」を受け取っていたという問題が明るみになった。6月27日、福岡県公安委員会は、県の暴力団排除条例(以下、暴排条例)に基づき、この男に対して「みかじめ料」を要求しないよう勧告した。この男は、絵画レンタル料などの名目で1点につき月3万円前後を受け取っていたとされている。
長きに渡り、「みかじめ料」の支払いが続いていたという背景には、被害者である事業者から被害届が出されにくいという実情がある。その点において今後の暴排運動における課題があるのではないだろうか。福岡の暴力団情勢に詳しい県警OBを取材した。
「『みかじめ料』を払っていたとしても、暴力団からの仕返しを恐れる店は、なかなか被害届を出しません。また、暴力団のほうもそこまで見越して、ターゲットとなる経営者を選んでいるのです」。同OBは、暴力団への取締りが厳しくなる一方で、狡猾になってきた「みかじめ料」の手口を説明した。現在、被害を受けているのは、若い経営者(特に女性)の店が多いという。そして、手口とは以下のようなものだった。
暴力団は、組員をまず客として店へ行かせ、その店の内情や経営者について情報収集を行なう。ターゲットに選ばれると絵画、植木、マットといった物品のレンタルがもちかけられる。まずはひとつから。そして、一度受け容れると、2つ、3つと品目が増やされる。もちろん料金は、1点につき月3~5万という法外な値段だ。
実は今回、「勧告」を受けた男は、以前、他の店でも同様の手口でトラブルを起こしていたという。しかしながら、被害者側が被害届を出さないため、表沙汰になることがなかった。また、この「みかじめ料」以外にも、飲食店から月30万ほど回収する手口(詳細は取材中)もあり、それも含めて約7千万円にのぼったと同OBは見ている。
月30万を超える暴力団への支払いは、店にとっては死活問題だ。そして、そのしわ寄せは、客の飲食料金におよぶ。また、違法な客引きを利用してでも売上をあげたいと考えるようにもなってくる。結果、暴力団との結びつきが強まっていくことになるのである。
同OBは言う。「昔は、何も(事件が)無くても、店に飲みに行ったりして、警察と店の人間関係を作っとった。困ったことがあったら、すぐに相談されよったんです。ところが今は、イメージを気にしてそういうのを禁止している。『みかじめ料』でキツイ思いをしていても、心から信頼して相談できる警察官がいないということが問題の本質だと思います」。暴排条例には、暴力団へ利益供与した場合の罰則規定も定められている。悪質な場合は、1年以下の懲役か50万円の以下の罰金だ。罰則で縛るだけではなく、今後、警察がもっと市民の身近な存在となるよう信頼を得ていくことも重要なのではないだろうか。
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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