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【トップインタビュー】早稲田大学大学院教授 野口悠紀雄氏(7)~資本がいらない資本主義
直撃インタビュー
2010年7月11日 08:00

根拠なき楽観論に振り回されるな 日本に求められる産業構造の転換

 ―動きが鈍い日本の枠組みを転換させる議論として、道州制の話などがあります。

 野口 道州制というのが何言っているのか、何をやろうとしているのか私にはよく分かりません。将来的に大きな意味があるとはとても思えません。日本が小さな国に分裂するというのなら、それはたいへん大きな意味を持つとは思います。たとえば、東京は地方の面倒を見る必要がなくなりますから、高い経済水準を実現するでしょう。今のヨーロッパの小国と同じくらいになる可能性があるかもしれません。

早稲田大学大学院教授 野口悠紀雄氏 九州のなかでも、北部九州が独立すれば、おそらく経済は発展するでしょうね。連携というよりは他から離れるということです。福岡市と北九州市だけが独立するというのはどうですか。北部九州は可能性がある地域だと思います。製造業の未来はあまり明るくないですし、地理的な問題もあまり重要ではありません。この地域にいる人たちが、活気があるからです。とくに福岡へ行くとそれが感じられます。

 要は外、つまり中国大陸を向けばいいのです。東京から離れる方が発展できると思います。それができる地域は、日本でもそれほど多くない。おそらく、最も可能性があるのが北部九州ですね。

 道州制の話自体は日本経済の今後にとってあまり重要ではありません。問題は、日本の産業構造がどう変われるかということです。政治単位とか行政単位の問題というのは、そんなにバイタルに重要ではないと思います。それに、小国に分かれようとしてもおよそ無理な話で、あまり現実性のない話です。

 大きな政府、小さな政府の問題でもない。国は成長に関係はありません。最低限言えることは、国は余計なことをするなということです。たとえば、日銀が成長分野に融資するとか、そういうバカげたことをしてはいけないということです。

 ―日本では優秀な技術を持った企業でも資金繰りが厳しく、海外に拠点を移そうとしているベンチャーもあります。

 野口 ただし、昔に比べて、新しい産業は資本があまり必要なくなりました。とくにIT産業ではそうですね。なぜなら、クラウドによって設備投資がそれほど必要なくなったからです。だから、アメリカのシリコンバレーでもベンチャーキャピタルの役割は低下したと言われています。というより、ほとんど必要なくなってしまったのです。

 グーグルやアマゾンの最初の頃は、ベンチャーキャピタルが何を見つけるかが重要だったのですが、今となっては、それはあまり重要ではありません。資金繰りはたしかに重要ですけれども、少なくとも資本金が重要な世界ではなくなりました。だから、資本がいらない資本主義の世界になってきたのです。

(了)

【大根田康介】

<プロフィール>
野口 悠紀雄野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著に『経済危機のルーツ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか』(東洋経済新報社、 2010年4月)、『世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか』(ダイヤモンド社、 2010年5月)などがある。

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