<与えられた環境のなかでベストを尽くす>
「厳しい環境の変化に対応できなければ、生き残れないと信じています。環境が悪いことを嘆いても仕方がない。与えられた環境のなかでベストを尽くす以外に、方法はありません」と、「高千穂株式会社」取締役社長、川井田幸隆氏は話す。その言葉は自らの経験より得られた教訓だ。川井田氏の経営者人生は、決して順風満帆と言えたものではなかった。同社は、1956年に前社長の川井田千穂氏により木材販売会社として設立された。業績を順調に上げていたものの、大型投資の失敗と折しも販売代金の焦げ付きが発生。主力仕入先の問屋会社の経営介入、当時年商65億円の営業権を強制的に譲渡させられ、事業からの撤退。売上はゼロ。一時は従業員も一人だけとなり、5年の間、経営を家賃収入のみに頼るという凄まじい逆境に立たされた。その状況下でも、川井田氏は社の発展へ向けての施策を、怠ることはなかった。社の不良債権を処理する一方で、子会社にはびこる諸問題の決着を図り、社の体質を健康体へと近づけていく。そして、87年より塗装合板事業を展開し、89年から始めた輸入合板事業が大きく拡大。今では、塗装合板の販売において九州最大のシェアを獲得するまでに至っている。
そして、現在もたらされている売上高半減という新たな逆境においても、川井田氏は生き残るための施策を怠っていない。本業である合板事業の経営を子息の川井田佳遠氏に任せ、自身は不動産運用・投資部門に取り組んでいる。そこでは、さまざまな困難を乗り越えてきたなかで培われた戦略眼と、優れた先見性が活かされており、着実な利益へと結びついている。また、父の経営スピリッツを継承した佳遠氏は、本業において安定した経営手腕を発揮している。ここにおいても新たな環境の変化に対応し、未来への基盤を維持しているのである。
先行き不透明な経済情勢のなか、保身に走る企業が多い。その状況下でも、川井田氏は社会の一員としての企業の在り方を正しく認識し、社会貢献を企業の義務であると考えている。いかなる時でも決して忘れない。同社は、財団法人「日本盲導犬協会」、NPO法人「青少年の自立を支える青空の会」、在宅心身障害児者療育訓練施設「やすらぎ荘」、児童養護施設「ひばりが丘学園」など、多くの社会福祉団体へ寄付活動を行なっている。
世界同時不況の煽りを受けた09年においても、「ひばりが丘学園」の児童たちと「やすらぎ荘」の青少年たち330名を、福岡ヤフードームで行われた福岡ソフトバンクホークスの試合へ招待している。8月22日に招待した「ひばりが丘学園」の児童たちは、交通事情による試合中止の為、観戦ができなかったものの、後日行なわれた同チームの試合へ再び招待。そんな心のこもった社会貢献活動を徹底して行なっている。
この慈善行為は10年に亘って毎年継続されているという。「人は自分が今恵まれていると感じたら、弱い人々に支援の手を差伸べるべきと考える。会社は営利を目的とする集団であり、利潤を生み出し続けないと存続出来ないが、私利私欲のみ追求するのであれば、お客様の信頼を失い、仕入先の好意的なサポートも受けられず、結果としてこれ又存続出来ない。会社は社会の公器であり、お金と財産は生きている間、神様からの預かり物として認識すべきと考えている」。多くの苦難を乗り越えてきた川井田氏ならではの人生訓によるものであろう。
<プロフィール>
川井田 幸隆(かわいだ ゆたか)
1946年、福岡市生まれ。慶応大学卒業後、「高千穂㈱」に入社。取締役を経て、92年、代表取締役社長に就任。趣味は、「日本古代史の真実を探求する」こと。「九州古代史の会」会員でもある。
<会社概要>
高千穂(株)
代表者:川井田 幸隆
所在地:福岡県粕屋郡宇美町早見工業団地
設 立:1957年
資本金:6,100万円
TEL:092-933-2664
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