フェロシルトはどの地区も運び込まれるのを拒んでいる産廃物だ。というのも、フェロシルトを製造した石原産業は"四日市ぜんそく"という一大公害を引き起こした1社でもあり、フェロシルトの搬入が確認された土壌から環境基準を超過する六価クロム及びふっ素が検出されたことや、チタン廃棄物の放射線量を16年間恒常的に改ざんしていたことなどから分かるように、同社の企業倫理が極めて脆弱だからだ。石原産業の企業倫理が懐疑的となれば、同社製造のフェロシルトが環境基準をクリアしているという根拠も信用できない。また、自然破壊そして生命の危険をはらむなかで、なぜ、わざわざその産業廃棄物を糸島に持ってくるのかが分からない。もし、受入目的が利益だとすればこれは地域を侮辱する行為といえる。たとえ行政が許しても地域は許すまい。
地産地消を推進する糸島経済の根幹は自然の恵みにある。夏は海水浴、冬は牡蠣で賑わう糸島半島は、地形を活かした豊潤な一次産業地帯として福岡市に生産物を安定的に供給している。糸島は米、野菜、果物、魚介、和牛など地域生産物のブランド展開で全国的にその名を知られ、JA糸島の産直市場は年商37億円の事業規模を誇る。道州制を控え地域自立を体現する糸島がなぜ疑わしい産業廃棄物を受け入れるのか。そのあたり事業者は明確に示す必要がある。
持続可能な循環型社会への移行において静脈産業(注1)が担う役割は大きい。ゆえにその産業従事者には企業倫理を強く持って欲しい。持続可能な循環型社会への移行は現代社会の命題で、これは方針とか予定ほど悠長なものではない。行政が手綱を握り民間は従う構図ではなく、民間が実現可能なモデルを提案していく時代だ。持続可能であるためには世の中の理を考え、原理原則に従う。それが出来ない事業者は自ら退場しなくともやがて淘汰される命運にある。
【河原 清明】
(注1)静脈産業:自然から採取した資源を加工して有用な財を生産する諸産業を、動物の循環系になぞらえて動脈産業というのに対して、これらの産業が排出した不要物や使い捨てられた製品を集めて、それを社会や自然の物質循環過程に再投入するための事業を行っている産業。
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