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賃貸トラブル解決の新潮流―ADRが示唆するもの(中)
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2010年7月 2日 08:00

<第三者による仲裁――「敷金診断士」>

 これらは法的トラブル全般に対応、その一環として賃貸トラブルも扱うが、賃貸および住宅購入にともなうトラブルに特化しているのが、日本住宅性能検査協日住検)。内閣府認証のNPO(特定非営利活動)法人として04年に東京で設立され、06年から本格活動を開始。現在、東京を中心に札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡など全国に7支部を置き、年間5,000件の電話による無料相談を受ける一方、そのうち2,000件のトラブルをADRで解決している。いわば、現在の状況を先取りした日本初の第三者仲裁機関だ。
 「一番多いトラブルは、何といっても敷金、保証金の返還をめぐるもの。退去時の『原状回復』は家主、賃借人双方が認めても、問題はその中味です。どこまで借り主側が負担すべきかの境界が曖昧なためにトラブルになりやすいのです」(大谷昭二日住検理事長)。
 そこで日住検は、「敷金診断士」なる独自の資格者を養成。彼らが賃貸物件の適正な原状回復費の査定をしたうえ、退去に立ち会って適正な敷金、保証金の返還を実現する仕組みを構築したもの。毎年、敷金診断士の志望者を募り、協会スタッフの弁護士、司法書士、一級建築士ら法律と建築専門家が作った試験を実施する。出題範囲は法律関系の民法、借地借家法、消費者契約法など、建築関係では建築物の構造や概要、材料などに関するもの。その合格者に一定期間の講習を課したうえで認定する。
 とはいえ、敷金診断士はあくまでも民間資格なので、彼らが行なうのは第三者の目による適正な原状回復費の算定。それを貸し主、借り主双方に納得してもらえればそれで役割を終える。しかし、そこで解決しなかった場合、訴訟はもとより、仲裁や調停など法的手続きが必要になれば弁護士ら専門家の出番となるが、敷金診断士の段階でトラブル解決すれば1万5,000円から2万円。早く、安価で済むのが特徴だ。
 「賃貸トラブルの背景には、仕事をつくりたい建設業界、融資先を確保したい金融界、今の税制では借金が有利という資産家が一体でマンションやアパートを建てる。オーナーは資金返済のために入居者の回転率を上げたいし、一度フトコロに納めた敷金、保証金は返したくない。それらの矛盾がトラブルという形で表出します。西日本では『敷引き』が常識になっていますが、敷金、保証金は本来、全額返済されるべきものです」(大谷理事長)。

(つづく)

恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。


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