(株)九州国際エフエム
「Love FM」の名称で親しまれるラジオ放送運営会社の(株)九州国際エフエム。特別清算申請の意向を持つものの、事業譲渡を巡り従業員が筆頭株主である福岡市に対して意見書を提出するなど、事態は複雑化している。ここでは同社の破綻に至った経緯を検証するとともに、第3セクターの現状についても触れていく。
<特別清算申請へ>
(株)九州国際エフエムは、福岡都市圏に居住する外国人、外国語や国際交流に関心のある日本人などを対象に、外国語放送を主とする発信を目的に1996年8月に設立された。福岡市(10%)、福岡県(8.7%)のほか、九州電力をはじめ地元の60の企業や団体が出資する第3セクター。「Love FM」の名称で、山口県西部、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県北部を対象エリアとして、英語や中国語など10カ国語の番組放送を97年4月から開始。ピークとなる06年3月期には4億1,107万円の売上高を計上していた。
しかし、インターネットなど他媒体の普及により広告収入が減少。10年3月期の売上高は約2億9,200万円まで落ち込み、06年3月期以来、4期連続で減収となっていた。また、開局当初の設備投資や過去の累積赤字から、債務超過額は約1億7,300万円にも上り、財務内容は脆弱。放送設備の更新時期を迎えていたが、資金調達、市況回復のメドが立たず特別清算申請の意向を固めた。
今後は、地域ラジオ局「天神エフエム」を運営する西鉄グループに、放送事業を譲渡する方針。天神エフエム側に同社従業員の受け皿がないことから、同社は従業員に対し退職についての同意を求めているが、従業員側はこれに対し猛反発。労働組合として筆頭株主である福岡市に対し、事業譲渡計画の撤回や会社側への指導を求める旨の要望書を提出するなど、具体的な行動を起こしている。「上がどう動いていて、今後どうなるのか我々も分からない」と天神エフエム関係者。特別清算申請への道のりは険しいものとなりそうだ。
<第3セクターの現状>
第3セクターを見ると、今年度に入り、福岡では都市未来ふくおかと九州国際エフエム、名古屋ではあおなみ線を運営する名古屋臨海高速鉄道が事実上破綻。近年になってとりわけ第3セクターの破綻が増加しているというわけではないが、やはり市民生活に近い位置に存在する組織であるため、その動向を受け流すことはできない。ここからは、第三セクターの有り様、経営の問題点について述べていく。
まず、第3セクターとは何か。簡潔に言うと、官と民の中間に位置するセクターのことである。中間にはボランティアを含めてさまざまな組織が存在するが、そのなかでも民法および商法によって規定され、法人格を持つものが第3セクターである。地方公共団体が25%以上出資していることが条件となる。
総務省の統計によると、09年3月末時点の第3セクターの数は7,535法人。業務分野では農林水産が1,330法人と一番多く、観光・レジャー、教育・文化などが後に続く。80年代後半から、政府が地域間の経済格差を是正するために、積極的な地域振興策の枠組みを打ち出したことにより、90年代前半にかけての時期に設立が集中。この傾向は、いずれの業務分野についてもおおむね共通しているが、とくに観光・レジャーの分野で顕著である。
次に注目したいのが、第3セクターの経営状況。経常収支の状況では、実に全体(一部を除く)の37.1%にあたる2,314法人が赤字である。公共的性格を持つため、政治的意図によって、経常黒字の場合にはサービス価格の引き下げ、経常赤字の場合には存続可能なレベルまでの措置が行なわれることもあり、同数値のみでの判断は難しいが、業績の良し悪しが経営の悪化要因の一つであることはたしか。財務内容においては、5.5%にあたる409法人が債務超過に陥っている。
ただ、グラフのように法人数が減少しているのは、決して経営悪化によるものだけではない。09年度を見ると、統合による減少、廃止による減少の2通りがあるが、廃止においても188法人中の約4割が「すでに事業の目的を達成(予定していた業務が終了)しているため」など前向きな意味での廃止が多い。経営悪化による廃止となったのは、約2割にあたる26法人。九州国際エフエムは、当然この部類にあてはまる。
<天下り廃止が当面の課題>
なぜ、経営悪化が起こるのか。当然、民間と同様に受注環境の悪化が主な原因だが、やはり経営能力に問題がある。官と民の中間という特殊な事業形態であるため、曖昧な責任からの馴れ合いが生じること。官と民の出資により設立されるため、より透明度の低い外部組織となり公益性のチェックがおろそかになること。この2点が、経営悪化をもたらす大きな原因と考えられる。
また、民間と比較すると、経営に対する危機感や経営者の責任感などはかなり劣る。そのため、倒産する際も実にあっさりとしており、事業存続に向けて最後まで足掻くような企業努力は決して感じられない。ゆえに、メディアは第3セクターに対し「無責任経営」「放漫経営」のレッテルを貼るし、実際にそれを否定することはできない。
事業仕分けなどで、組織の存在価値、存在意義を問い質すことはもちろんだが、まずは天下りを完全に廃止し、無責任経営、放漫経営を行なう企業経営者を除外することが必要だ。
【楢﨑 賢治】
(株)九州国際エフエム
代 表:右田 喜章
所在地:福岡市中央区天神2-5-35
設 立:1996年8月
資本金:4億9,900万円
年 商:(10/3)約2億9,200万円
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