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【トップインタビュー】早稲田大学大学院教授 野口悠紀雄氏(4)~日本人でなくてもいい
直撃インタビュー
2010年7月 8日 08:00

根拠なき楽観論に振り回されるな 日本に求められる産業構造の転換

 ―たしかに、新しい産業への転換は必要です。グーグルの村上名誉会長は「日本企業はまだまだIT武装が進んでいない」とおっしゃっていました。そもそもIT産業が発達しきれていないということでしょうか。
 
 野口 まず、日本にIT産業はないと思います。今のアメリカのIT産業というのは、グーグルだけではありません。アップルもそうですし、アマゾンもそうですし、IBMもそうです。これらの企業では資本収益率が10%を超えています。アップルに至っては20%近くです。
 
 日本の製造業においては、09年3月期段階ではホンダですら1%台なので話になりません。10年3月期は黒字転換しましたが、それでも資本収益率は低い。問題は、アップルやアマゾンに代表されるIT産業のような新しい産業が現れるかどうかです。日本にはこれがありません。
 
 ―日本には、そうした産業は生まれ得るのでしょうか。
 
 野口 それは、日本経済が大転換しないとできないことです。
 
 ―具体的に誰がどのようにすれば、そのような産業が生まれるのでしょうか。
 
 野口 唯一の方法は、日本経済が焼け野原になることです。廃墟になれば出てくるでしょう。80年代、アメリカの製造業は日本からの輸出によって追いまくられ、繊維産業も鉄鋼もエレクトロニクスも、みな潰れていきました。そして最後に、自動車が潰れました。それと前後して、アップルやアマゾンのような企業が現れました。そうした流れは、政府が作ったわけでもなく、誰かが作ろうとしてそうなったわけでもありません。
 
早稲田大学大学院教授 野口悠紀雄氏 先に挙げたIT企業は競争の末に生き残ったもので、これらの企業が生き残るまでには死屍累々なのです。それらのなかには、非常に先進的な企業もあったわけです。たとえばネットスケープとか。ブラウザを発明しながら、マイクロソフトに追われて数年間で死んだ企業もあるわけで、その類の企業はいくらだってあります。

 今の状況から、連続的にこういう企業が日本に生まれてくるとはとても思えません。とくに最初に申しましたように、根拠のない楽観論で皆が何とかなるだろうと思っている限り、絶対に出てきません。

 アメリカにおいて、こうした企業をつくったのは、アメリカ人とは限りません。たとえばグーグルのセルゲー・ブリンはロシア人ですし、ヤフーのジェリー・ヤンは台湾です。インテルのアンドリュー・グローブはハンガリーで、彼はハンガリー動乱のときに脱出した人です。サン・マイクロシステムズにいたっては、創業した人の半分以上が外国人です。だから、別に日本人でなくてもよいのです。その意味で、アメリカとくにシリコンバレーは世界に開かれています。

 ―たしかボストンにも同じような地域があったのですが、やがて衰退したと聞きます。

 野口 ボストンも、20年くらい前までは環状道路のまわりがリサーチ地域だと言われていたこともあります。しかし、ここからはあまり優秀な企業は生まれてこなかったですね。10年ほど前、アメリカ東海岸にもいくつかそういうところが生まれつつあると言われたことがあります。でも結局はあまり発展しませんでした。

(つづく)

【大根田康介】

<プロフィール>
野口 悠紀雄野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著に『経済危機のルーツ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか』(東洋経済新報社、 2010年4月)、『世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか』(ダイヤモンド社、 2010年5月)などがある。

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