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スマートグリッドの主役は誰かー中小・零細企業も住民もすべてが当事者
深層WATCH
2010年8月 2日 15:50

 次世代送電網「スマートグリッド」をめぐる動きが日本でも本格化してきた。電力の需要と供給をコンピューター制御することにより、必要なところへ必要量が、必要なときに送電される仕組みをつくればムダな発電も受電もしなくて済む。そんな「スマート=賢い」送電ネットワークを構築しようというのがスマートグリッド。電力の需給バランスをとる理想的なインフラ構築をめざすもので、発送電側と受電側が状況に応じて入れ替わることもある。

 6月16日から18日まで、東京の大型イベント会場、東京ビックサイトで『スマートグリッド展2010』が開かれた。主催は日刊工業新聞、共催が経産省所管独立行政法人の新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)。後援は内閣府や経産省以下の関係省庁、協賛は科学技術振興機構はじめ各界の研究機関や業界団体。平日の3日間に約4万人の入場者があり、スマートグリッドへの関心の高まりが窺えた。
 「地球環境問題を意識した循環型社会の構築、持続可能な社会づくりには、省エネルギーを徹底させ、再生可能エネルギーの利用を拡大していくことが重要」であり「エネルギーの流れの川上から川下まで非常に幅広い業種を網羅した一大産業となりえます」と主催者挨拶にあるように、出展者は多士済々。
 企業は商社や東芝、日立などの重電から大手ゼネコン、NTTはじめとする通信から各種ベンチャーまで。団体は経産省はじめ電気事業連合会、日本ガス協会はじめ、沖縄県やさいたま市などの自治体も。他にマスコミ、広告業界から各種研究機関、慶応や明治など大学まで多種多様な約80企業、団体で、そのすそ野の広がりも窺わせた。

 これに先立つ4月6日、経産省と東京電力などのエネルギー産業界は「スマートコミュニティ・アライアンス」なる官民一体の協議機関を設立した。287企業、団体が参加しているが、目的は太陽光や風力をはじめとする再生可能エネルギーのインフラ構築。さらにそれを新興国や途上国を中心に海外での受注を狙っている。
そして来春3月には同じく東京ビックサイトで、「世界最大級」と謳う「国際スマートグリッドEXPO」が開催される。出展希望しているのは先のイベントや協議機関に参加した企業はじめ、日本の大手企業ほとんどを網羅した約1,000の企業、団体。またイベントに留まらず伊藤忠グループは米国ニューメキシコ州で、横浜市は日産自動車などと組んですでに実証実験にも着手している。
 もともとスマートグリッドが注目されるきっかけは、米オバマ政権が08年に打ち出したグリーンニューディール政策。金融危機克服と不況対策のための新しい産業振興をめざしたものだが、その柱が温暖化対策も視野にしたスマートグリッドだった。

 日本ではここにきて国や大手企業の動きが目立っているが、スマートグリッドに注目し、期待したのはむしろ独自の自然エネルギー利用技術を開発してきた中小、零細企業だろう。それというのもスマートグリッドが目指すのは、電力会社が需給を調整する現在の一方通行的な在り方とは異質なものだからだ。
 いま電力の発電、送電はほぼすべてが電力会社の手にゆだねられている。電力各社は供給エリア内の夏や冬の需要ピーク期に対応できる発電設備を保有。平常時は出力の上げ下げが簡単にできない、いわゆる小回りのきかない原発をフル稼働させ、小回りのきく火力や水力で需要の変化に対応している。原発は安全運転のために一定の出力を保つ必要があり、さらに経済性のためにフル稼働させる必要もある。その結果、春秋の深夜のように電力が余っているときには、揚水発電のために余剰電力で水を揚水ダムに汲み上げておく。原発をつくれば揚水発電所も必要となるが、それらのコストも当然ながら電気料金に反映されている。
 そんな電力の発送電の在り方に対し、各家庭や事業所が導入した太陽光、風力、小型水力などで発電したものを自家消費以外に融通し合い、それでも余れば蓄電池に貯めておけばムダを省ける。これら再生可能エネルギー技術や関連技術は日々進化しているが、研究段階のものには海岸地帯で有力な波力発電などもある。そんな発電、供給ネットワークを村落や市町村など小さなコミニュティから構築していく。それらコミニュティ同士が繋がっていけばスマートな送電網がさらに拡がり、低炭素社会も実現できる。したがって発電、送電、蓄電など電気に関わるさまざまな技術や製品はもとより、電力の需給をバランスさせるコンピューターソフト開発をはじめとする通信分野など中小、零細企業も参入可能なのがスマートグリッドだ。

 「そこで問題になるのが私たちの独自技術がどこまで生かされるかです」というのは、東京のワステック(株)の杉崎健副社長。同社は従来のプロペラ型風力発電と異なる垂直型風力発電システムを開発。昨年からスーパーや病院の敷地内に設置して施設の照明用や銀座の街灯用など、都市部で試験導入されている。通常のプロペラ型風力は1基でも一定の敷地を要し、数十、数百基なら広大なスペースを必要とする。同社のそれはスクリューのような円筒状の三枚羽根が回転する仕組み。支柱一本なのでビルの谷間など狭いところでも設置可能で、360度どの角度からの微風でも回転するのと静粛性が売り。
 「今年から再生可能エネルギーの電力による新しい買い取り制度で、水力、風力はKW当たり15~20円、太陽は48円。経団連は当初反対していたように、大手は自分たち主導の体制つくりをしたい。我々のような技術は自治体あたりから導入してほしいものですが、自治体には資金がないので結局は国の理解が要る」(杉崎氏)。
 現在進められているスマートグリッド構築は、国と大手の意に沿ったもの。すなわち電力会社の原発や大型火力による電力を核に、再生可能エネルギーはあくまでもその補完的役割に留める可能性大。スマートグリッドと同時に官民あげて途上国、新興国に原発売り込みを図っていることでもそれは明らか。
 「それは米国も同じ。旗振り役はGEやIBMなどの大手企業。実は最先端では、各家庭や会社が必要な電力を自前で調達できる画期的な技術が目前です。そうなったら原発も火力も要らなくなってしまう。スマートグリッドも意味がなくなるので、そんなことは原子力マフィアもオイルメジャーも許さない。だから既存秩序と折り合いをつけながら進めるしかないのです」(米国のエネルギー関係ベンチャー企業役員)。
 個々人や企業主、自治体などそれぞれが当事者意識をもち、法改正などを含めたスマートグリッドの理想的な在り方を目指し、ステップ・バイ・ステップということだろう。

(了)

恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。


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